アダチ版画が厳選した今、注目の浮世絵を2ヶ月に渡ってご紹介していく企画・アダチセレクト「話題の一枚。」 一枚の浮世絵の描かれた内容はもちろん、アダチならではの制作の視点や作品誕生の背景などにも迫ってまいります。数回に渡るコラムを通じて「話題の一枚。」の魅力を感じてください。
アダチセレクト「話題の一枚。」の記念すべき第1回目は、鈴木春信の「雪中相合傘」をピックアップ。
現在、江戸東京博物館で開催中(~3/2まで)の「大浮世絵展」にも大英博物館所蔵の「雪中相合傘」が展示されています。海外での人気も非常に高い本作品の魅力をご紹介します。
惜しみなく技巧を凝らした春信の名作
深々と降る雪が積もる道を二人で一つの傘を差し、寄り添い合って歩く若い男女の姿が描かれた鈴木春信の「雪中相合傘」。本作品の特徴は、何と言っても白と黒の対比にあると言えるでしょう。 春信は男女を描きわけるのに対照的な白と黒を用い、互いに引立て合う効果を活かして情緒豊かな作品に仕上げました。 |
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そして、そこに彫師・摺師のある特別な技が発揮されることで、本作品の印象を強いものにしました。今回は、その職人たちの技に迫ります。 |
色をつけずに形をつける"空摺"
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傘を差し寄り添う男女の着物を注意深くご覧ください。
模様が繊細ながらも、しっかりとした線で描かれているのがわかります。細かく入ったこの模様が、平面ではなく立体的な着物の質感を巧みに演出してくれています。
これは、版木に絵の具をつけず摺ることにより凹凸を作る「空摺(からずり)」と呼ばれる摺りの技法で表現されています。 |
<立体的に表現された着物の模様> |
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空摺は主に、雪・花びら・鳥や昆虫の羽・着物の模様など、和紙そのものの持つ味わいを活かし形を表現する際によく使われる技法で、春信の作品には多く見られます。
浮世絵を直接手に取り、間近で楽しんだ江戸の人々を喜ばせるための職人たちの試行錯誤が垣間見られます。 |
<着物の部分が繊細に彫られた版木> |
平面の版画が飛び出す!?"きめ出し"
次に雪道を歩く二人の足元にご注目ください。
地面にあたかも雪が降り積もったかのように、ふんわりと立体的に表現されています。 |
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<"きめ出し"で表現された雪> |
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これは、色摺が済んだ絵を版木にのせ、絵具をつけずに板の窪んだ部分を紙の裏から刷毛やブラシで叩くように隆起させ画面の一部分に立体感を出す「きめ出し」という技法を用いています。
この立体的な線が入ることで平坦な雪道から、降り積もった雪道へと変化しているのがわかります。 |
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<紙の裏からブラシで叩く熟練の技> |
このように空摺やきめ出しという技法が駆使された本作品は、絵師・鈴木春信と当時の彫師、摺師の高度な技術が一つになり完成しました。1767年(明和4年)頃のことです。それは、浮世絵の世界が大きく変化した年からわずか2年後。 一体その大きな変化とは!?
次回は、「雪中相合傘」が誕生した頃の浮世絵界に起きた大変革についてお話してまいります。 お楽しみに。
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