前回の「話題の一枚。」では、数ある美人画の中で最も高い知名度と人気を誇る、喜多川歌麿の傑作「ビードロを吹く娘」の魅力とその人気の秘密についてご紹介しました。
今回は、より本作を深く楽しんでいただくため、美人画の第一人者となった喜多川歌麿という人物像を探りつつ、それまでの浮世絵にはなかった新しい表現方法で描かれた「ビードロを吹く娘」に凝らされた技と工夫について迫ります。
喜多川歌麿とは
北斎、広重、写楽と並び、世界的にもよく知られている浮世絵師の歌麿は、浮世絵の黄金期において美人画絵師として活躍しました。しかし、その生涯について実はよくわかっていないようです。
吉原遊郭に住みつき多くの遊女を描き続けたことから、「青楼(せいろう)の画家」と呼ばれる歌麿。寛政2~3年(1790~91年)頃に発表された「婦女人相十品(ふじょにんそうじっぴん)」というシリーズの一枚である本作のように、それまでの春信や清長が描いた全身の美人画とは異なり、女性の体をクローズアップし、顔を大きく取り上げて描いた「大首絵(おおくびえ)」というジャンルを確立し、一世を風靡したとされています。
目鼻や口などの細かな視線や表情、手や指のしなやかな仕草などを一人一人描きわけることで、女性たちの内面性までをも表現した歌麿は、「美人画を描かせたら歌麿が一番」と言われるほど、「美人画=歌麿」と誰もが認める絵師となったのです。 |
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<喜多川歌麿「ビードロを吹く娘」> |
きらきら輝く背景の秘密!
江戸時代の人々が浮世絵を間近で楽しんだように、本作を手に取りその表面をじっくりと見てみると、人物の背景がきらきらと輝いているのがわかるかと思います。
浮世絵版画は通常、版木の上に水性の絵具を置き、和紙の裏からばれんで絵具を摺り込んでいくことで、表面はすっきりとした印象を感じさせます。
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一方、本作の白い背景の部分には、鉱物の一つである雲母(うんも)の粉末と、接着剤の役割をする膠(にかわ)を混ぜた「雲母(きら)」といわれるものを刷毛で和紙の上にのせています。
和紙の上にもったりとのった雲母(きら)が、作品に重厚感と華やかさを感じさせます。 |
<きらきらと輝く華やかな背景> |
背景以外の人物の部分が隠れるように渋皮の型紙をあて、雲母(きら)を刷毛で引いてくこの技法は、「雲母引き(きらびき)」と呼ばれています。
アダチ版画では、当時の浮世絵と同じ質感を忠実に再現すべく、このような技法をとっております。 |
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<当時の浮世絵と同じ質感を再現する"雲母引き"> |
「大首絵」を得意とした二人の巨匠
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ブロマイドのように背景をなくし、人物の顔を大きく取り上げた「大首絵」。 歌麿のほかに大首絵を得意とした絵師には、みなさんもよくご存知の「三世大谷鬼次 江戸兵衛」を描いた東洲斎写楽がいます。
実はこの作品も「ビードロを吹く娘」と同様、背景には雲母引きが施されています。 |
<黒雲母の背景が特徴的な「三世大谷鬼次 江戸兵衛」> |
きらきらと輝く背景で華やかさを演出した「ビードロを吹く娘」。それまでになかった表現方法で制作されたことが、「新しもの好き」といわれた江戸の人々に好まれた一つの理由だったのかもしれません。
時代を先取りし、江戸の人々の心をとらえた二人の絵師を生み出したのが、版元の蔦屋重三郎といわれています。
次回は、「ビードロを吹く娘」が生まれた時代背景とともに、版元としてプロデュースした蔦屋重三郎について迫ります。
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