爛々と目を光らせ水の中を覗き込む猫の姿に驚き、慌てふためいて逃げる姿、勢い余ってひっくり返る姿、勇ましく立ち向かう姿。まるで人間のような仕草や表情を見せる金魚たちを描いた本図は「金魚づくし」と呼ばれるシリーズの中の一枚。 |
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本格的な夏を目前にした今回のアダチセレクト「話題の一枚。」は、浮世絵界の奇才・歌川国芳が描いた「百ものがたり」を三回に渡ってご紹介します。
第一回目となる今回は、本作の見どころをじっくり見ていきましょう。 |
クールジャパンの元祖!?漫画のような金魚の擬人化
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尾びれや胸びれをまるで手足のようにくねらせ、画面上を自在に動き回る金魚やメダカたち。姿は金魚でありながら仕草は人間そのものです。
和金や流金など様々な種類の特徴を押さえつつ人の動きを模倣する金魚たちからは、勇敢だったり気弱だったりとそれぞれの性格まで想像でき、国芳の巧みな表現力に驚かされます。 |
<ひれの動きや表情がまるで人間のようです> |
江戸っ子もヒヤヒヤドキドキ!あやかしを呼ぶ百物語
全9図からなる「金魚づくし」のシリーズは、いずれも人々の日常の様々な場面を金魚の姿で描いたもの。その中で本図「百ものがたり」は夏の風物詩である怪談をテーマに描かれた作品です。
百物語とは江戸時代に流行した怪談会で、百本の蝋燭を灯し、怪談話をする毎に一つ灯りを消していき、最後の明かりが消えると本物の幽霊や妖怪があらわれると言われていました。江戸っ子たちは一晩中怖い話にヒヤヒヤしながら夏の暑さをつかの間忘れたのでしょう。 |
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浮世絵師の大御所・葛飾北斎もこの百物語をテーマに取り上げ「お岩さん」や「皿やしき」といった有名な怪談話をモチーフにした作品を描いています。 |
<有名な怪談を取り上げた北斎の百物語の一枚「お岩さん」> |
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そんな正統派の怪談を描いた北斎とは一線を画し、国芳の百物語は機知に富んでユーモアたっぷり。
本図はまさに百個目の怪談が終わり妖怪があらわれたところですが、金魚を驚かす妖怪といえば化け猫なのは納得ですね。金魚たちにとっては恐怖の一場面でも、つい笑ってしまう可愛らしい「怪談」です。 |
<金魚といえば天敵の妖怪、化け猫> |
手軽なサイズで楽しむ絵師の遊び心「戯画」
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作品中の「国芳」の文字の下に書かれた「戯画(ぎが)」の文字。これは文字通り戯れに面白おかしく描いた絵という意味です。 |
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そして大きさは通常の浮世絵の半分サイズで描かれており、価格帯もお手頃に、誰もが気軽に手に取れる作品となっています。 |
気取って描かれたものではない絵師の遊び心が溢れる作品を、江戸の人々もさらりと笑って粋に楽しんだのでしょう。 |
<画面の大きさも、手軽な通常の半分サイズです> |
怪談をする金魚! 時代を先取りしたポップカルチャー!
江戸時代初期に本格的な養殖が始まった金魚は、江戸時代後期には広く庶民にも愛好されるようになり品評会も催されるほどの人気となりました。そんなブームを受けて描かれたのがこの「金魚づくし」のシリーズです。
お祭りの出店の金魚すくいや、絵はがきや浴衣の柄のモチーフで、すっかり私たちもお馴染みの夏の風物詩となった金魚。近年では金魚そのものをアートに組み込んだアートアクアリウムが開催されるなど、新たな切り口からも注目を集めています。
江戸時代から現代まで多くの人々に愛されてきたこの金魚を驚くほどポップに、そしてユーモアたっぷりに描いた浮世絵師・歌川国芳とはどんな人物だったのでしょうか。
次回は時代を先取りした型破りな浮世絵師・歌川国芳の人物像に迫ります!
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