前回、前々回と歌川国芳「百ものがたり」のみどころや国芳の絵師としての魅力についてご紹介してまいりました。 最終回となる今回は、制作の視点から作品の魅力に迫りたいと思います。
様々な工夫を凝らして作られていた江戸時代の浮世絵。金魚づくしシリーズ「百ものがたり」には、一体どのような工夫が隠れているのでしょうか?
一石二鳥!?サイズに隠された秘密
「話題の一枚。」第一回でご紹介したように「金魚づくし」シリーズは、通常の浮世絵の半分のサイズ(中判)で作られています。
ここで右の2つの作品をご覧ください。「金魚づくし」シリーズのうち「酒のざしき」と「そさのおのみこと」です。
2つの作品を見比べていただくと、使われている色の種類がほとんど同じなのがお分かりいただけると思います。
そして次に、上部の濃い藍のぼかしにご注目ください。ほぼ同じ幅でぼかしが均一に入っているのがご覧いただけますね。 |
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<酒のざしき> |
<そさのおのみこと> |
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このような作品の様子から、本シリーズは大判サイズの版木に二枚分の図柄を彫って、一度に二種類の浮世絵を制作する"二丁掛(にちょうがけ)"という制作方法で作られたと考えられています。
つまり先ほどのぼかしの部分は、2図分を一度に摺ったということになります。
気軽に楽しんでもらうおもちゃ絵や短冊形の花鳥画などで特にみられる作り方で、絵師をはじめ職人たちの工夫が垣間見られるところでもあります。 特に「金魚づくし」は、子ども向けに作られたおもちゃ絵であり、"二丁掛"で作ることでより安価に多くの人々が楽しんでもらうことができたようです。
このように、国芳は、擬人化した金魚をメインキャラクターすると同時に、木版という版の特徴をうまく活かしコストを抑えることも考えて作品を描いていたことがお分かりいただけると思います。
流石!国芳といったところですね。 |
金魚づくしシリーズ、全何図?
金魚づくしシリーズは近年新たに発見された「ぼんぼん」を含め、現在9図が確認されています。
となると、ちょっと変ですね。"二丁掛"という手法を用いて作品が制作されたと想定すると、この図の登場により「金魚づくし」シリーズには、もう1図あって全10図になるのでは?
まだ見つかっていない図があるかもしれないなんて、なんだかちょっとわくわくする話ですね。 |
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<近年新たに発見された「ぼんぼん」> |
現代も色あせない江戸のセンス
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今回まで全三回に渡って歌川国芳「金魚づくし」シリーズのうち「百ものがたり」についてご紹介してまいりましたが、いかがでしたか?
怪談をする可愛らしい金魚たちの様子や、そんな茶目っ気たっぷりの戯画を多く描いた絵師・国芳の魅力的な人物像。そして制作に込められた工夫やまだ発見されていないかもしれない「金魚づくし」シリーズ10図目のお話など、まだまだ目が離せませんね!
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現代もなお、色あせないセンスに溢れた国芳の「金魚づくし」シリーズ。そのなかでも、今回ご紹介した「百ものがたり」は夏の季節にぴったりの一枚です。江戸の人たちが楽しんだ、可愛らしい金魚たちのユーモア溢れる様子を是非お楽しみください。
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