【特集コラム】 晴れの日に飾る 北斎の"おめでたい浮世絵"

2018.12.28

晴れの日に飾る 新春の浮世絵

新しい一年の始まりであるお正月。お正月に行われる行事には、旧年を無事に過ごせたことへの感謝と新年を迎える喜びが込められています。江戸の人々の暮らしと深く結びついた浮世絵にも、おめでたい正月にふさわしい図柄が描かれています。晴れの日を演出する華やかな浮世絵を飾って、新たな一年を迎えてみてはいかがでしょうか。

2017年に大英博物館で開催された展覧会をはじめ、国内海外問わず絶大な人気を誇る葛飾北斎。2019年1月17日(木)からは六本木の森アーツセンターギャラリーにて「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」が開催されるなど、ますます北斎ブームが盛り上がりを見せています!

そこで今号から3回にわたり、お正月のお部屋を彩るにふさわしい北斎が描いた"特別な浮世絵"をご紹介し、その魅力に迫ります!


オーダーメイドの贅沢品!? 北斎の"特別な浮世絵"とは...?

現在でも絶大な人気と知名度を誇る、北斎の代表作「凱風快晴」や「神奈川沖浪裏」は、世界中に現存する作品の状態やその数から、江戸時代当時に何千枚も摺られたと考えられています。

その一方で、わずかな部数しか摺られなかった"限定品"のような浮世絵版画もありました。それが『摺物(すりもの)』と呼ばれるものです。

凱風快晴

摺物とは一般に広く販売された浮世絵版画とは異なり、主に句会や狂歌連といった同好の仲間内で配ったり、交換したりする目的で作られたオーダーメイドの浮世絵版画。販売ことが目的ではなく、純粋に風雅を楽しむために作られた摺物は、一部の人々の間にしか出回らない珍しくて贅沢なものでした。

摺物には、お祝い事や記念の品物としての意味合いが強く、縁起の良い図柄が描かれています。版木の枚数や色数など制約の中で表現する市販の浮世絵とは異なり、最高級の和紙に贅沢な絵具を用い、淡い色合いを何度も摺り重ね上品で繊細な色合いを表現したり、版木に色を着けずに摺る"空摺(からずり)"を入れたりと、手間を惜しまず贅を凝らして作られているのが特徴です。

では、実際に北斎の摺物を見ていきましょう!


とにかくおめでたい!! 七福神が踊り歩く「踊行列図」

まず今回ご紹介するのは、北斎が手がけた摺物のひとつ「踊行列図」。細長い縦長の画面に、楽しげに踊りながら練り歩く老若男女7人が描かれています。各々の個性豊かな服装から見ると、どうやら仮装行列の踊りのようです。画面の一番上にいるおじいさんが持つ、大きな傘に描かれた宝づくし文様から、本図の画題は縁起の良いものだと考えられます。

日本各地に伝わる縁起の良い仮装行列の踊りには、七福神に仮装して踊る「七福神踊」や「七福神舞」というものがあります。実は、本図に描かれた彼らは、それぞれ七福神になぞらえて見ることができるんです!

では、上から順番に見ていきましょう。


  踊行列図

まずは一番上のおじいさん。七福神の中でおじいさんといえば寿老人です。赤い頭巾は今も還暦祝いの際にかぶりますね。健康と長寿延命の神様である寿老人にぴったりのモチーフです。

その下の黒い着物の男性。黒となると大黒様でしょうか。頭巾をかぶり、腕を高く上げているのは、打ち出の小槌を掲げるポーズに見えなくもありません。

笠をかぶった人物は、恵比寿様と考えられています。京都の十日えびすで、初えびすの際にのみ配られる、縁起物の「人気笠」にちなんでいるのでしょうか。

頭に赤い扇子をくくり付けているのは、毘沙門天でしょう。きっと兜のつもりですね。
 
お腹の飛び出たおじさんは、布袋さんでしょうか。かざした扇子は布袋さんのシンボルである団扇の代わりかも。


女性2人は弁財天と吉祥天だと考えられます。2人とも似たようないで立ちをしていますから、どちらがどちらか判別するのは難しいですね。そんなところまで、混同されがちな弁財天と吉祥天にそっくりです。

上側にいる女性の紫の着物には、観世水紋という水をモチーフとした文様が入っているので、こちらの女性がインドの水の神様が元の姿である弁財天なのかもしれません。


縁起の良い図柄で作られた摺物のなかでも、七福神に扮した老若男女が楽しげに踊り歩く「踊行列図」は、特におめでたい一図。新しい一年のスタートを飾るのにピッタリの作品。

是非、知る人ぞ知る北斎の縁起の良い名品を飾って、お正月の晴れの日を華やかに彩ってみてはいかがでしょうか。

 

縁起ものづくしで慶事にオススメ「姫小松に海老」

次にご紹介するのが、画面いっぱいに立派な伊勢海老が描かれた「姫小松に海老」です。
太くピンと張った髭や尾の内側に施された精密な描線など、細部に至るまで描き込まれた本図からは、北斎の並々ならぬ描写力がうかがえます。

"えび"は腰をくの字に曲げた老人の姿に見立てて「海老」と書き、その海老の代表格である伊勢海老は古くから長寿の願いを込め、鯛と並んで祝い事には欠かせないおめでたい食材とされてきました。主題である伊勢海老はもちろんのこと、その他にも本図には縁起の良いモチーフがいくつも描かれています。

それでは、実際に描かれている縁起物にそれぞれどんな意味があるのでしょう。


姫小松
一年を通じて緑の葉をつけ、千年の樹齢を保つとも言われる松。若い松には、さらなる飛躍の意味もあります。また、二葉一組の松葉の形は、仲睦まじい夫婦に例えられます。
 
 
  伊勢海老
腰が曲がるまで元気に長生きできるとの意味から、長寿の象徴とされています。また脱皮を繰り返して成長を続ける海老は、立身出世の意味合いも。また赤い色は、古代から邪気を払う魔よけとして用いられてきました。
 
踊行列図
 
千両の実
江戸時代、1,000両の財産を有すれば、お金持ちとして番付に載りました。お正月のお飾りにもよく使われる千両の実は、富の象徴とされています。
 
 
  搗栗(かちぐり)/椎の実
「勝ち」の音に通じることから、縁起物として出陣前に食すなど、勝利の祈願や祝儀に用いられてきました。また、椎の実はどんな環境でも発芽することから、忍耐強さを表しています。


縁起の良いものがこれほどまで揃った北斎「姫小松に海老」。北斎が手がけた摺物の中でも、逸品といっても過言ではないでしょう。新しい一年を迎える晴れの日はもちろん、慶事にもオススメの作品を飾ってお楽しみください。



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品質へのこだわり

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厳選素材・道具

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