【企画展関連コラム】彫師が語る「写楽」の魅力

2019.06.28

アダチ復刻事業の礎 謎の絵師・東洲斎写楽の全貌に触れる


現在開催中の企画展「アダチ復刻事業の礎 謎の絵師・東洲斎写楽の全貌に触れる」では、写楽の作品だけでなくアダチ版画の復刻事業についてご紹介いたしております。

今回、彫師歴50年を超える親方の新實がこれまで培った経験をもとに、写楽について語ってもらいました。
本コラムでは、彫師から見た写楽の魅力をご紹介いたします。

■企画展関連コラム「彫師からみた写楽の魅力とは?」

新實は、大学生の時、展覧会で目にした写楽の作品に感銘を受け、彫師を志しました。当時は彫師と摺師がいることすら知らなかったものの、「こういうものを彫ってみたい」という強い思いを抱き、1965(昭和40)年、彫師の名人と言われた大倉半兵衛氏の門を叩きました。大倉氏が亡くなるまでの8年間、「半兵衛最後の弟子」として彫師の修行をした後、1973(昭和48)年にアダチ版画研究所へ入りました。
これまで、浮世絵の復刻版はもとより、日本画の巨匠の作品をはじめとする現代の木版画作品などたくさんの作品を手がけました。現在、その力量は第一人者として広く認められています。



Q.彫師としての視点から、絵師としての写楽を見るとどうですか?

新實:実際に写楽を彫ってみると、一本たりとも余分な線がないことに改めて気づかされるね。一般的にもよく言われることだけれど、写楽の作品は、最小限の線や色数で最大限の効果を生むように描かれているから、当然、線は少ない。
写楽ならではの独特な表情や、手の躍動感を出すための線を彫るのは特に難しいね。
あと、彫師になってからは、「写楽は役者に嫌がられるほど個性を誇張しすぎている」という世間の認識とはちょっと違う感じ方をするようになったかな。

彫師・新實


浮世絵師について書いた『浮世絵類考』には、写楽について「あまりに真を描かんとて あらぬさまにかきなせしかば 長く世に行われず 一両年にして止ム」と記されています。
このように「写楽は役者を美化せずに、大げさなまでに個性を強調して描いている」というのが世間一般的な写楽の評価ですが、新實の言う、世間の認識とは違う感じ方はどの様なものなのでしょうか。


■新實の思い出の一枚から見る「写楽の役者絵」

新實:確かに女形ならば、リアルに描くことで嫌がられるということはあったかもしれないけれど、男に関しては、写楽は他の絵師よりも数段魅力的に描いていると思う。
例えば、市川高麗蔵なんかを見てみると、写楽の高麗蔵はずいぶんと愛嬌がある。

大学生の時に、たまたま展覧会で見た写楽の「三代目市川高麗蔵の志賀大七」にとっても感銘を受けて、彫師を志すことになった。
そういう意味で、今でも思い出深い作品だね。
そもそも「志賀大七」は悪役だから、普通この役の高麗蔵を描いた作品は、とても目つきの悪い、いかにも悪役らしい姿で描かれている。
それに対して写楽は、役者の本来の魅力を描き出しているように思う。その時演じている役柄にとどまらずに、役者自身の人間的な魅力までとらえているように感じるね。

新實の思い出の一枚
三代目市川高麗蔵の志賀大七

東洲斎写楽
「三代目市川高麗蔵の志賀大七」




勝川春英 三代目市川高麗蔵 志賀大七

勝川春英
「三代目市川高麗蔵 志賀大七」



ここで、写楽と同時期の絵師・勝川春英が描いた「三代目市川高麗蔵 志賀大七」の作品を見てみましょう。
2枚の役者絵を見るに、三代目市川高麗蔵は面長な顔に高いかぎ鼻、しゃくれた顎を持つ人物だったようです。
これらの特徴を、春英はやや控えめに、一方の写楽は、顔はより長く、鉤鼻は鋭く曲げて、顎もしっかりと前に出して描き、役者の特徴をより克明に表現しているように見えます。
役者を美化し、「志賀大七」として描いた側面の強い春英の作品に対し、写楽の作品はまるで高麗蔵の似顔絵のよう。目元に注目すると、すこし丸みを帯びた目の形がなんだか愛らしく見えてきませんか?新實の言う『役者自身の人間的な魅力』も、そのあたりにあるのかもしれませんね。


今回、彫師新實から話を聞くことで、リアリティをもって役者を内面まで描き出した写楽の姿が見えてきました。大げさなまでに個性的な大首絵も役者自身の魅力を表現したものと考えると、また違った面白みが出てきますね!


現在、アダチ版画 目白ショールームでは、企画展「アダチ復刻事業の礎 謎の絵師・東洲斎写楽の全貌に触れる」を開催しております。
今回ご紹介した「二代目市川高麗蔵の志賀大七」をはじめとする写楽の黒雲母の大首絵全28図を中心に写楽の傑作のほか、アダチ版画が昭和初頭の創業以来続けてきた復刻事業の歴史をご紹介する貴重な資料も展示中です。6月30日(日)までの開催となります。是非、お出かけください。



■開催概要

企画展「アダチ復刻事業の礎 謎の絵師・東洲斎写楽の全貌に触れる」
会 期
 2019年6月15日(土)~6月30日(日)
休 館
 月曜日
会 場
 アダチ版画研究所 目白ショールーム
 詳細はこちら >>



品質へのこだわり

品質へのこだわり

アダチの浮世絵は、手にして初めて分かる、熟練の技術と日本の伝統が詰まっています。

製作工程

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一切機械を使うことなく一枚一枚職人の手仕事により丁寧に作られている木版画です。

厳選素材・道具

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職人紹介

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浮世絵の基礎知識

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