北斎「藍の傑作」に迫る

2019.08.01

広重と北斎


アダチ版画では引き続き、藍を用いて鮮やかに描き出された夏の情景の名作たちをご紹介しています。
今回は、これまでにない表現を可能にした「新しい藍色の登場」をテーマに、北斎の名作を見てまいります!

■江戸のクールな流行「藍摺絵」


浮世絵風景画の代表作といわれる葛飾北斎『富嶽三十六景』には、藍色の濃淡だけで表現された「藍摺絵」と呼ばれる作品が存在します。クールでモダンな印象の藍摺絵は現代でも人気がありますが、藍を基調にして風景を表すという発想はいったいどこからやってきたのでしょう。

葛飾北斎 富嶽三十六景 武州玉川

葛飾北斎「武州玉川

天保2(1831)年に刊行された、柳亭種彦作「正本製」巻末の『富嶽三十六景』の広告記事を見てみると、「冨嶽三十六景 前北斎為一翁画 藍摺一枚、一枚に一景づつ追々出板、此絵は富士の形ちのその所によりて異なる事を示す」とあります。なんと、『富嶽三十六景』は当初、「藍摺絵」のシリーズとして出版されていたようです。
当時、富士講の流行をとらえ「富嶽三十六景」を企画した版元・西村永寿堂が、この「藍摺絵」を取り入れたのには、色でも人々を楽しませようとする意図があったのでしょう。

藍摺絵に使われていたのは、昔から使われていた「本藍」という渋めの藍と、当時西洋から輸入された「プルシアンブルー」の二種類の藍でした。プルシアンブルーは、化学的な合成顔料で、現在のベルリンで作られたことから、日本では「ベルリン藍」、省略されて「ベロ藍」と呼ばれました。

それまでの歌麿などの作品につかわれていた植物系の「つゆ草」や、渋い青色の「本藍」にはない鮮やかな青色の表現を可能にした「ベロ藍」。
当時の人々は、この新しい、透明感ある美しい青色「ベロ藍」の登場に熱狂し、この鮮明な青で摺られた浮世絵をこぞって求めたのです。


■藍摺絵の傑作!「甲州石班沢」

葛飾北斎 富嶽三十六景 甲州石班沢

葛飾北斎「甲州石班沢

ベロ藍の人気を踏まえて出版された藍摺絵は富嶽三十六景の中に10点ほどありますが、一番の名作というと「甲州石班沢」ではないでしょうか。随所に北斎の優れた感覚が伺えます。
本図は、富士山に面する鰍沢の南側にあった兎之瀬と呼ばれる渓谷付近をイメージして描いたものだと言われています。

葛飾北斎 富嶽三十六景 甲州石班沢

うっすらともやのかかるところから頭を出す富士山。アウトラインに用いられた趣のある本藍と、向こう側が透けて見えるような繊細な青を表現するベロ藍の使い分けが見て取れます。

何度かに分けてぼかしを入れた空が、画面全体に幻想的な雰囲気を与えています。

葛飾北斎 富嶽三十六景 甲州石班沢
《広がりのある空》

青のみで自然の美しさや厳しさを表現しようとする北斎の意図を汲み取り、一流の職人が2種類の藍を使い分けて摺り上げるこの作品は、名作ぞろいの富嶽三十六景の中でも根強い人気を誇る傑作です。



今回は江戸の流行「藍摺絵」から北斎の名作をご紹介してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。
現在アダチ版画のオンラインストアでは、「広重と北斎"藍色対決"! 藍色遣いで魅せる夏の浮世絵」と題し、藍を用いて鮮やかに描き出された夏の浮世絵をご紹介しております。
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品質へのこだわり

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