■江戸の庶民に親しまれた浮世絵の「花鳥画」
江戸時代に流行した浮世絵において、風景画と並んで人気が高かったのが「花鳥画」です。 西洋では静物画として、花瓶に入れた花などをモチーフとした作品は多くありますが、自然の中にある草花をありのままに描いたのは東洋独特の文化。室町時代に中国の画風を受け確立された花鳥画は、江戸時代になると、浮世絵のジャンルとしても広く親しまれるようになり、広重や北斎など、当時を代表する絵師も多くの花鳥画を残しました。特に広重は、生涯に1000点近い花鳥画を手掛けたともいわれています。 もちろん、同じ花鳥を描いた作品でも絵師によってその表現ははさまざま。 たとえば、広重と北斎が、紫陽花を描いたこの2作品。見比べると二人の画風の違いがとてもよくわかります。 |
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■紫陽花の花の描き方 空摺と緻密な輪郭線
まずは、紫陽花の輪郭線に注目してみましょう。 広重「紫陽花に翡翠」では、花の輪郭線が墨ではなく、版木に色をのせずに摺ることで凹凸を出す「空摺」を用いて控えめに表現されています。これによって葉脈や、翡翠の羽の、細かな線描写とのバランスが絶妙にとられています。
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一方、北斎「紫陽花に燕」では、大きな花に隠れた小さな花びらまで、一枚ずつ細かく輪郭線がとられています。さらに葉の質感や茎の節まで正確に表現されており、紫陽花のありのままの姿を描くことに注力していることがわかります。
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■葉まで鮮やかに彩った広重 色彩で立体感をつけた北斎
それでは、それぞれの「色」は、どのようになっているでしょうか。 |
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広重の描く紫陽花は、鮮やかな青と、薄いピンクで彩られています。特に印象的なのが葉の部分。浅黄色や、花と同じ色合いで表現され、作品全体の豊かな色彩と協調しています。
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一方北斎は、紫陽花のまるい形をより立体的にみせるため、淡い薄水色とピンク色のグラデーションで表現しています。反対に葉や茎は、かなり濃い色合いで摺られており、作品の印象をぐっと引き締めています。
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どちらの作品も、翡翠や燕、そしてそれぞれ背景との配色が完璧になされており、人気絵師であった二人の優れた色彩感覚が見て取れます。
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■広重と北斎 「紫陽花」から画風の違いを読み解く
広重は「紫陽花に鶸」でも、紫陽花を描いています。 こちらの作品では、花の輪郭線は描かれているものの、北斎の細かな描写とは違い花びらの一枚一枚がおおまかに捉えられており、作品全体の優しい雰囲気を助長しているようにも感じられます。
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歌川広重「紫陽花に鶸」 |
このように見比べていくと、広重は作品の協調性を重視し、北斎は描く対象の細かな部分まで、正確に捉えようとしていることがよく分かります。
広重の描く花鳥画の多くには、和歌や漢詩が添えられており、目に映るものの見たままを描くことよりも、作品の抒情的な世界観をより大切にしていたのかもしれません。 一方で北斎は、本作以外の花鳥画でも葉脈や花の細かい部分まで正確に描ききっています。自然の中に咲く花々の美しい一瞬を見事に切り取った作品の数々からは、世の中の森羅万象をあますところなく捉えようとした北斎の信念が伝わってきます。 |
「季節のうつろいを浮世絵で感じる~初夏を優しく彩る花鳥~」では、紫陽花以外にも菖蒲や藤など、初夏の花々を描いた作品をご紹介しています。同じ題材を描いた作品で、それぞれの絵師の個性を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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