三枚続きのパノラマで堪能する季節の絶景 歌川広重『雪月花』

2020.09.28

https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/feature/2020/08/post-156.html

■三枚続のパノラマで堪能する月の絶景 広重の『雪月花』


色調を抑えた画面に、一際明るい月が輝く広重の「武陽金沢八勝夜景」。広重の晩年期に描かれた三枚続の傑作「雪月花」の「月」の一枚です。

歌川広重 雪月花 武陽金沢八勝夜景
歌川 広重 「武陽金沢八勝夜景

神奈川県の名所・金沢八景(小泉、称名、乙舳、洲崎、瀬戸、平潟、野島、内川)の秋の月夜を描いた大作です。金沢八景の景観が、三枚続の大画面いっぱいに描かれ、湾内の静かな海面が満月の光で明るく透明に輝いています。雄大な情景を、色調を抑えた静かなトーンで描いた本図は、いつまでも眺めていたくなるような一枚です。

  歌川広重 雪月花 武陽金沢八勝夜景 静かな夜景を表現するため、全体的に色味を抑えて墨と藍との諧調のみで描かれています。島々は墨の濃淡で、立体的に表現されています。  
  秋の風景には欠かせない月と雁。色調を抑えた作品の中で、一際明るい満月が際立ちます。 歌川広重 雪月花 武陽金沢八勝夜景  

  
  歌川広重 雪月花 武陽金沢八勝夜景 三枚続は、一般的な浮世絵のサイズである「大判」を縦に三枚使い描かれています。 専用額付きでは、このように仕立ててお届けしています。雄大なパノラマの情景を、存分にお楽しみください。  
     【現在アダチ版画の目白ショールームにて展示中です】


■巧みに表現された『雪月花』の「雪」と「花」


『雪月花』では、「雪」と「花」を表す雄大な絶景も同様に、見おろすように俯瞰したパノラマの視点で描いています。

歌川広重 雪月花 木曾路之山川
歌川 広重 「木曾路之山川

三枚続の画面いっぱいに描かれた、迫力の白雪が降り積もる冬山。その景観に添えるのは、暗い空と渓谷の水の色彩のみ。渋み溢れる配色は、山国の冬の厳しさを遺憾なく表しています。

  歌川広重 雪月花 木曾路之山川 全体的に色調を抑えた画面の中、降り積もった雪の眩さを和紙の地の色を生かし、素晴らしく表現しています。墨色のぼかしを効果的に用いて、雪山の立体感も作り出しています。  

歌川広重 雪月花 阿波鳴門之風景
歌川 広重 「阿波鳴門之風景
絵のみ75,000円

他の2作品とは異なり、色鮮やかで、激しい動きを感じる1枚です。鳴門海峡の渦潮を描いた本図は、淡い水面の藍色と、遠景に描かれた淡路島の峰々の緑との対比が、画面に明るさと柔らかさをもたらしています。雪月花の"花"を描いた本作。このすさまじい渦潮の波頭を、「花」にたとえて表現しているのです。

  歌川広重 雪月花 阿波鳴門之風景 グラデーションのようなぼかしで異なる色味を調和させ、夏の鮮やかな山々を表現しているさまも見事ですが、さらに奥に見える山々の景色は墨の濃淡を用いて立体的に描かれ、どこまでも続く自然の雄大さを物語っています。  


■パノラマの大画面が三枚続として出版されたわけ


なぜ広重をはじめとした絵師たちは、こういったパノラマの構図を一枚の和紙にではなく、三枚に分けて描いたのでしょう。そこには、浮世絵が美術品としてではなく、出版物として作られていたことが大きく関係していると考えられます。
現代の雑誌や文庫本などの出版物なども、一定の決まったサイズのものが色々な出版社から発売されています。これは、より多くの人々に安価にものが行き渡るためには、なるべく費用をかけずに効率よく出版をするための業界のルールなのでしょう。江戸時代の浮世絵も同様で、浮世絵に使われた和紙のサイズも何種類か決まった大きさのものが使われました。

一般的に使用されていたのは、『大判(おおばん)』と呼ばれる大きさの紙。北斎の「神奈川沖浪裏」や、現在季節のオススメでご紹介中の「猿わか町夜の景」がこの大判サイズで出版されています。

浮世絵 和紙 サイズ

今回ご紹介している「武陽金沢八勝夜景」は、「金澤八景」の絶景をパノラマで描くことにより、その魅力が存分に表現されています。この作品を作るのに、横長の大きな和紙を特注で作るという考えもありますが、和紙を特注で漉くこと、さらには、その大きさの山桜の版木を用意することを考えると経済的な点からみても現実的ではなかったのでしょう。
この作品において広重は、三枚続きという規格の『大判』サイズを三つ横に並べることによって自身が意図した「迫力のある大画面」を生み出すことに成功したのです。

歌川広重 雪月花 武陽金沢八勝夜景

そして広重は、このパノラマの画面を使い、優れた構成力をも発揮しています。
『雪月花』の三作品は、この視点から景色を俯瞰するのは、実際には難しいと考えられています。見たままを描くのではなく、想像の世界を加えながら抜群の構図で絶景を描き切った、まさに晩年の広重の集大成といえる作品ではないでしょうか。

歌川広重 雪月花 阿波鳴門之風景 そして、この作品の見どころは、技術面にもあります。三枚続の場合には、空の色やぼかしの部分を違和感なくつながって見えるように、三枚を揃えなくてはいけません。ここには、摺師の高い技術が必要不可欠です。規格の中での作る工夫ではありますが、摺師にとっては、より一層技術力が求められる作品であるといえますね。

晩年期の広重の卓越した構成力と、職人の高い技術があってこそ生まれた傑作「武陽金沢八勝夜景」、そして『雪月花』をぜひご堪能ください。

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品質へのこだわり

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