アダチセレクト 話題の一枚 「北斎花鳥画集」-Part2. 線と面-

2022.05.13


アダチセレクト 話題の一枚
「北斎花鳥画集」-Part2. 線と面-


アダチセレクト・話題の一枚は、毎回一人の絵師とその作品を取り上げ、木版制作工房としての視点なども含めながら、作品とその制作背景などをご紹介していく連載企画です。

今回は、浮世絵とは思えないようなモダンな雰囲気が魅力の葛飾北斎の大判花鳥画シリーズをご紹介していますが、この「北斎花鳥画集」は、ガレやドーム、ラリックなど、当時西洋で最先端であったガラス工芸家たちのデザインにも取り入れられ、世界的にも高い評価を得ているシリーズです。

北斎は、 富士山、滝、橋、海、そして花鳥風月にいたるまで、この世のあらゆるもの、森羅万象の真を描き出すことに執念を燃やしてきた絵師。本シリーズのテーマである花鳥画に挑むにあたり、北斎は自然界をどのようなまなざしで見つめ、いかにして描き出そうとしたのでしょうか。

前編(Part1)では、北斎が自然を表現するのに用いたその大胆な構図に着目し、静と動の描き分けについて解明を試みました。 >>Part1はこちら

このPart2では、北斎が花鳥の「生命」を描き出した花鳥画を、北斎最大のライバル・広重の花鳥画と比較し、その作品の持つモダンな雰囲気の秘密を探りたいと思います。




葛飾北斎「北斎花鳥画集 全10図




■ 浮世絵風景画の二大巨匠、北斎・広重が描いた「花鳥画」

北斎が代表作『冨嶽三十六景』を生み出したころ、同じく風景画家として高い評価を受けていたのが、『東海道五拾三次』や『名所江戸百景』などで知られる歌川広重です。広重は北斎より30歳以上も年下でしたが、当時から、それぞれの持ち味を生かした作風で人々を魅了する、北斎の良きライバルと言える存在でした。

左)葛飾北斎「神奈川沖浪裏」「凱風快晴
右)歌川広重「日本橋 朝之景」「大はしあたけの夕立


そんな広重も北斎同様、風景画のみにとどまらず花鳥画の分野においても数多くの秀作を残しており、2人の花鳥画には同じモチーフを描いた作品も多く見られます。

葛飾北斎「紫陽花に燕 歌川広重「紫陽花に翡翠


こちらは北斎と広重が描いた「紫陽花」の花。こうして並べてみると、作品の持つ雰囲気が全く違うように感じませんか?
よく見てみると、2人の紫陽花の描き方には大きな違いがあります。その違いを詳しく見てみましょう。



■ 線の北斎・面の広重


北斎と広重、2人の紫陽花の作品について、絵師が最初に描いた下絵の線の部分のみを摺ったもの(校合摺)をご覧ください。北斎の紫陽花は既に花の形がはっきりわかりますが、広重の紫陽花はどこにも見当たりません。

葛飾北斎「紫陽花に燕」の校合摺 歌川広重「紫陽花に翡翠」の校合摺


北斎は紫陽花の小さな花弁一つ一つを強弱のついた描線で丁寧にとらえています。校合摺を見てみると、その筆致の繊細さがよくわかります。



一方、広重の紫陽花は、空摺と淡い色の面で構成されています。校合摺を見てみると、広重がいかに色の面をうまく用いて絵を構成しているかが見て取れます。




では、他のモチーフではどうでしょうか。こちらは北斎と広重が描いた「牡丹」の花です。

葛飾北斎「牡丹に蝶 歌川広重「牡丹に孔雀


北斎は、牡丹の薄くやわらかな花びらが風に翻る様子を、無駄のない描線で描き出しています。また、花の輪郭や花脈、葉脈をも繊細な線で描き、見事な色使いで花や葉の裏表が表現されています。
これに対して、広重の牡丹は、いくつかの赤の色面が組み合わされ、重なり合うことによって、気品漂う花の様子が立体的に形作られています。そしてこれにより華やかで格式高い、牡丹の理想の姿が描き出されています。





一色で塗りつぶした背景に対象物をシンプルに配置し、「線」でモチーフを写実的に描き表した北斎の花鳥画は、グラフィックアートにも似た、モダンでクールな印象を与えます。それは、北斎が物事の本質を描き表そうとするとき、「線」を重視していたからと言えるでしょう。

モダンな雰囲気を活かし、木目調の白木額でナチュラルなスタイルに。


一方、広重の花鳥画には、心に迫るような抒情性や、独特の温かみが感じられます。広重の花鳥画には、日本らしい美しさが詰まっています。それは、広重が日本人の感性や文化、理想的な美しさを描き出すために、「面」を用いた柔らかな表現を駆使しているからです。

日本らしい美しさを持つ和風のインテリアとして、洋室のアクセントに。



連載企画「アダチセレクト・話題の一枚」の、葛飾北斎『北斎花鳥画集』編。Part2である今回は、北斎と広重の花鳥画を比較し、それぞれが重視した表現に迫り、2人の絵師の魅力についてお話してきました。お楽しみいただけましたでしょうか?


○北斎花鳥画集の魅力に迫る特集を開催中!

今なお世界で高い評価を受けている浮世絵師・葛飾北斎。今年2022年の春、日本各地で大規模な「北斎」展が開催され、大きな注目が集まっています。
アダチ版画ではこの機会にもっと皆様へ北斎の魅力を知っていただきたいという思いから、現在『北斎花鳥画集』の魅力に迫る特集を開催中です!

アダチ版画の目白ショールームでは、北斎の自然の表現に着目した展覧会『北斎が極めた「自然の表現」』を開催中です。お近くにお越しの際には、ぜひお立ち寄りください。

Part1.北斎花鳥画集〜広重との花鳥画対決でその魅力に迫る〜
展示の様子


さらに、アダチ版画のHPでは、北斎花鳥画集のシリーズ全10図をご紹介中。


また、この大判花鳥画のシリーズを季節ごとに差し替えてお楽しみいただいているお客様にインタビューさせていただいた内容を記事として公開中です。


品質へのこだわり

品質へのこだわり

アダチの浮世絵は、手にして初めて分かる、熟練の技術と日本の伝統が詰まっています。

製作工程

制作工程

一切機械を使うことなく一枚一枚職人の手仕事により丁寧に作られている木版画です。

厳選素材・道具

厳選素材・道具

江戸当時の風情を感じられる当時の浮世絵の再現にこだわり、厳選した素材と道具を使用。

職人紹介

職人紹介

最高の作品を創り出すために、日々技術の研鑽を積む熟練の職人たち。

浮世絵の基礎知識

浮世絵の基礎知識

意外と知らない?浮世絵の世界。浮世絵の基礎知識をご紹介。