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晴れ間の日差しに夏の訪れを予感するなか、少し先取りして、夏をテーマに目白ショールームの展示替えを行いました。夏は七夕や花火など、楽しみなイベントがたくさん!今からわくわくしますね。

広重が描く花火や、清長が描く夏の浴衣美人、思わず涼しくなってしまう北斎の百物語など、夏の魅力盛りだくさんの浮世絵を展示。

また、現在開催中のジャポニスム展に関連して、印象派の画家にゆかりのある浮世絵作品のセットもご用意いたしました。モネが愛した浮世絵や、ゴッホが模写した「大はしあたけの夕立」「亀戸梅屋敷」など、すっかり気分は印象派!

夏の風薫る目白ショールームに、ぜひお越しください。
https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/showroom/

アダチセレクト「話題の一枚。」

前回、前々回と「大はしあたけの夕立」が印象派の画家たちに与えた影響や、広重が本作に込めた工夫とこだわりについてご紹介してきました。ラストを飾る今回は、本作に秘められた浮世絵制作の技について迫ります。

版下絵から見えてくる制作の秘密

絵師・彫師・摺師・と分業制の浮世絵制作において、浮世絵師は線だけで構成された版下絵(はんしたえ)を描きます。
ここで、「大はしあたけの夕立」の版下絵を見てみましょう!

えっ?これだけ!?と驚かれたのではないでしょうか?
本作品の完成図と比べてみると、描かれていない部分が多いことが見て取れるかと思います。

版下絵に描かれているのは、手前を横切る大橋・急ぎ足で橋を渡る人々・そして川に浮かぶ船と船頭ただそれだけなのです。

歌川広重「大はしあたけの夕立」の版下絵
<歌川広重「大はしあたけの夕立」の版下絵>

 

それに対し、皆さんがよくご存知の葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」を見てみましょう!

絵のほとんどが線で描かれているので、摺り上がりの全体像が、輪郭線だけで想像することができるかと思います。

葛飾北斎「神奈川沖浪裏」の版下絵
<葛飾北斎「神奈川沖浪裏」の版下絵>

輪郭線の中に一色ずつ色を摺るという"線"と"面"で構成される浮世絵版画。
上の二図を比べてみても、北斎が"線"で描くことを得意としたのに対し、広重は"面"を効果的に利用した絵師といえるでしょう。


かすんだシルエットで表現された対岸の街並み

そして、本作の場合、対岸にかすんで見える街並みは、輪郭線をあえて描かずに、面を使ってシルエットで柔らかく表現しています。

二次元の絵の中で、効果的に空間と距離を感じさせる見事な表現方法といえるのではないでしょうか。

<かすんだシルエットで表現された対岸の街並み>

 

わずか二回の摺りで大雨を降らせる!夕立の秘密

では、本作の見どころともいえる"夕立"は、いったいどのように表現されたのでしょうか。

実際に雨を摺る際に使う版木を見てみると、まるで定規で線を引いたかのようにまっすぐな線が無数に彫ってあります。
摺り上がりでは幾重にも見える雨ですが、実際にはわずか版木二面を使っているだけなのです。

うすい墨と濃い墨の二種類で摺り分け、さらに雨の角度に微妙な変化をつけることで激しく打ち付ける夕立を表現しています。

版木二面だけで表現する激しく降りつける雨
<版木二面だけで表現する激しく降りつける雨>

 

熟練の技術を要する緻密な彫

さらにこの降りつける夕立を作り出すには、なんといっても緻密な彫が重要。
一円玉と比較すると一目瞭然です。

これほど繊細な彫となると、当時から技術を認められた彫師だけが彫ることを許されたと考えることができます。熟練の技術を要する緻密な彫は、まさに彫師の腕の見せどころ。間近で見ていただきたいポイントです。

<熟練の技術を要する緻密な彫>

 

暗雲が垂れ込む!摺師の技が魅せる空模様

そして、空には黒々とした雨雲が垂れ込めています。本作で描かれている夕立は、まさに今でいうところの"ゲリラ豪雨"でしょうか。

作品上部にぼかしを入れ、その色を変えることで季節や時間・天候までをも表現した広重ですが、本作においても墨でぼかしを入れることで暗雲を表現しています。

暗雲が垂れ込む空模様
<暗雲が垂れ込む空模様>

 

摺師の腕の見せどころ

この雨雲がモクモクと垂れ込む様子を表現するために、"あてなしぼかし"と言われる摺りの技法が使われています。これは版木に雲の形が彫ってあるのではなく、平らな板の上を刷毛を使って雲の形を描くようにぼかしを作ります。

一度に100枚程度を仕上げる摺師にとって、まったく同じ形の雲に摺るこの"あてなしぼかし"は、熟練の摺師にしかできない大変高度な技なのです。

<摺師の腕の見せどころ"あてなしぼかし">

 

ここまで、3回に渡って歌川広重の代表作「大はしあたけの夕立」をご紹介しましたが、本作の魅力を充分にお楽しみいただけましたか?

風景画の常識を破り、縦長の画面を最大限に活かした大胆な構図や、和紙に水性の絵の具を摺り込むことで生まれた"広重ブルー"など、江戸の庶民を楽しませるために工夫したことで生まれた浮世絵の魅力が、印象派の画家たちに大きな影響を与え「ジャポニスム」というブームを起こしたと言えるのではないでしょうか。
このコラムを通して、広重が本作に込めた工夫とこだわりを感じていただければ幸いです。

そしてこの度、ボストン美術館が所蔵している「大はしあたけの夕立」が来日!
あのモネの傑作「ラ・ジャポネーゼ」も同時にご覧いただけるジャポニスム展が、今月28日(土)から東京の世田谷美術館にて開催されます。

展覧会と合わせ、ジャポニスムの一端を担った本作の魅了をじっくりお楽しみください。

歌川広重「大はしあたけの夕立」

 

歌川広重「大はしあたけの夕立」 商品詳細はこちら >>

アダチセレクト「話題の一枚。」

前回の「話題の一枚」では世界的に有名な歌川広重の傑作「大はしあたけの夕立」の魅力と、海外で「広重ブルー」と言われた作中の深い青色についてご紹介しました。「話題の一枚」第2回では「広重ブルー」が海外で高く評価されたことに関連して、本作品が海外の画家に与えた影響という視点からその魅力に迫ります。

彼らは浮世絵から一体どのような影響を受けたのか?その大きな流れであったジャポニズムとは一体?

ジャポニズムとは?

ジャポニズムとは、明治期に入って海外に渡った日本の美術工芸品が特にヨーロッパで高い評価を受けたムーブメントのこと。

開国後、日本の陶器を海外に送る時の梱包材として使われていた浮世絵に当時の西洋の人が驚き、高く評価したというエピソードを聞いたことがある方も多いと思いますが。本格的には、1862年にロンドンで開かれた万国博覧会で初めて浮世絵が世界にお披露目されたそうです。

その頃から、海外の上流階級の人々が浮世絵を評価し、コレクションし始めるようになると、彼らに浮世絵を販売する商人も現れます。その結果、大量の浮世絵が海外へ渡ることとなりました。

このことをきっかけとして、浮世絵は多くの芸術家に影響を与えていきます。

例えば音楽では、ドビュッシーが北斎の「神奈川沖浪裏」にインスピレーションを得て交響詩「海」を作曲しました。この曲の表紙にも「神奈川沖浪裏」をイメージしたデザインが使用されたほど。

<ドビュッシーがインスピレーションを受けたと言われる>

 

また、ガラス工芸ではエミール・ガレが浮世絵に影響された作品を多く残しています。特に蜻蛉のモチーフはそれまでの西洋では使われなかったもので、ジャポニズムの象徴として彼の作品に好んで用いられています。

<欧州では不吉なものとして嫌われていた蜻蛉。日本では勝虫として多用されたモチーフ>

日本では当たり前に楽しまれた浮世絵ですが、初めてそれを目にした彼らの驚きと感動は大変なものだったのでしょう。

浮世絵に影響を受けた当時の様々な芸術のなかでも、そのことが最もよくわかるのが印象派の画家たちの作品です。彼らは浮世絵を集め、模写し、こぞって自身の作品に浮世絵の要素を取り入れていきました。

中でも熱を入れて浮世絵にのめり込んだのがゴッホでした。


浮世絵に惚れ込んだ画家、ヴァン・ゴッホ

ゴッホといえば、「ひまわり」などの作品で世界的に高い評価を受けていますね。

1853年にオランダで生まれたゴッホはほとんど独学で絵を学び、32歳でパリに移り住んだ際に出会ったのが浮世絵でした。「大はしあたけの夕立」は「雨の大橋」というタイトルで模写作品があることで有名です。

浮世絵を気に入った彼はそれ以外にも、広重の「亀戸梅屋舗」など模写作品を多く残しています。

美術の世界において「模写をする」ということはただ単に写すということではなく、「作風や作者の制作意図を理解する」ための手段として用いられると言われています。

ゴッホは広重の名作を模写することで一体何を吸収しようとしたのでしょうか。

 

歌川広重「大はしあたけの夕立」

西洋にはない構図

彼の他の風景画作品と「大はしあたけの夕立」を比べて見ると、大きく異なるのは構図の取り方にあるような気がします。

上から見下ろすような構図は、西洋にはあまり見られない浮世絵独特の表現と言えるのではないでしょうか。
広重の作品にはよく見られる描き方ですが、遠近法で写実的な世界を描くことが主流であった西洋の人々にはインパクトのある構図だったことが想像できます。

<画面を上から見下ろす大胆な構図>

 

木版画の色

また、印象派の画家たちはそれまでの西洋の絵と比べて、全体的に明るい色彩を用いたことが特徴であるとよく言われます。絵の具を混ぜずにキャンバスに乗せ、作品が目に映った時の発色にこだわったそうです。

ゴッホが「大はしあたけの夕立」を見たとき、作品はまだ出版から2、30年ほどしかたっていなかった頃で、木版特有の摺りたての鮮やかさがあったと推測されます。

<透明感のある浮世絵独特の発色>

彼は油絵で模写を残していますが、和紙に水性の絵の具を摺りこんだ浮世絵の発色は、キャンバスの上に絵の具を塗り重ねる油絵を描いていた西洋の画家の目に非常に魅力的に映ったことでしょう。


このように見てくると「大はしあたけの夕立」は、構図や色を含め、独学で絵を学んだゴッホにとって非常に得ることの多い新鮮なものだったといえます。

それは、和紙と水性の絵具という日本特有の素材と当時世界でも類を見ない高度な木版技術によって浮世絵が制作されていたからこそともいえるのではないでしょうか。


日本独自の木版画技術が込められた浮世絵。
次回は、印象派の画家たちを魅了した「大はしあたけの夕立」に込められた、木版画の技術をご紹介しながら作品の魅力に迫っていきます。

歌川広重「大はしあたけの夕立」 商品詳細はこちら >>

現在開催中、および今月開催のオススメ浮世絵展覧会をご紹介します!
入梅でうっとおしい日々が続いていますが、各地で魅力的な浮世絵の展覧会が目白押しです。

 

◆ 今月のPick up!オススメ浮世絵展覧会




 

特に岡田美術館では、TVニュースでも話題となった歌麿の傑作「深川の雪」が66年ぶりに公開中。
「深川の雪」は大変巨大な肉筆画で、総勢27人の遊女や芸者の様子が描かれています。「品川の月」「吉原の花」とともに「雪月花」3部作として知られる「深川の雪」。浮世絵師である歌麿のそれほどまでに大きな肉筆画を見られる機会はめったにありませんので、ぜひ目の前で見てみたいですね。

歌麿晩年の傑作を見に、箱根まで足を運ばれてみてはいかがでしょうか。

岡田美術館 (神奈川 箱根)
再発見 歌麿「深川の雪」
2014年4月4日(金)~6月30日(月)


◆ アダチ版復刻浮世絵の取り扱いがある美術館・博物館

下記でご紹介する美術館・博物館では、アダチ版復刻浮世絵をお求めいただけます。(お求めいただけない商品もございますので、ご了承ください。)


太田記念美術館 (東京 原宿)
江戸の相撲と力士たち
2014年6月1日(月)~26日(木)


静岡県東海道広重美術館 (静岡 由比)
御上洛東海道
- 幕末のジャーナリズム -
2014年4月1日(火)~7月6日(日)


中山道広重美術館 (岐阜 恵那)
国際浮世絵学会創立50周年記念
中山道広重美術館所蔵名品展
2014年4月3日(木)~6月15日(日)

 

MOA美術館 (静岡 熱海)
浮世絵の華 春章
「婦女風俗十二ヵ月図」と「雪月花図」
2014年6月13日(金)~7月6日(日)


広重美術館 (山形 天童)
絵のなかの数字とことば
2014年5月30日(金)~6月30日(月)


東京国立博物館 (東京 上野)
浮世絵と衣装 - 江戸(浮世絵)
2014年5月20日(火)~6月15日(日)


◆ その他、オススメの浮世絵展覧会


名古屋市博物館 (愛知 名古屋)
福岡市博物館所蔵 幽霊妖怪画大全集
2014年5月21日(水)~7月13日(日)


水田美術館 (東京 紀尾井町)
浮世絵でたどる房総の旅
2014年6月10日(火)~7月5日(土)

 

現在、山口県立美術館にて開催中の「大浮世絵展」、神戸市立博物館にて開催中の「ボストン美術館浮世絵名品展 北斎」の二会場では、出口にてアダチ版の復刻浮世絵を販売しています。
色鮮やかな浮世絵を手に取ってじっくりとご覧いただけますので、お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。

品質へのこだわり

品質へのこだわり

アダチの浮世絵は、手にして初めて分かる、熟練の技術と日本の伝統が詰まっています。

製作工程

制作工程

一切機械を使うことなく一枚一枚職人の手仕事により丁寧に作られている木版画です。

厳選素材・道具

厳選素材・道具

江戸当時の風情を感じられる当時の浮世絵の再現にこだわり、厳選した素材と道具を使用。

職人紹介

職人紹介

最高の作品を創り出すために、日々技術の研鑽を積む熟練の職人たち。

浮世絵の基礎知識

浮世絵の基礎知識

意外と知らない?浮世絵の世界。浮世絵の基礎知識をご紹介。