アダチセレクト「話題の一枚。」

 

先週末の13日(土)から東京・上野の森美術館で始まった、ボストン美術館の名品を集めた北斎展。週末は、入場制限もかかるほど連日大盛況とのこと。今回「話題の一枚。」でも取り上げている「罌粟」を含む大判サイズの花鳥画シリーズは全10枚のうちの9枚が揃い、特に本図はまるで摺りたてような色鮮やかな状態とのことで、必見の価値あり。

今回のコラムでは、風や空気、時間といった目に見えない動きのあるものまでをも表現しようとした北斎の才能について迫ります!

まさに江戸のデザイナー!?北斎流のデザインとは?

浮世絵は、大量生産の商業印刷として木版で作られていたため、制作費に直接影響のある板の枚数や摺る回数がなるべく少なくなるように版下絵を描いていました。つまり、版元からの注文を受けた北斎は、一定の制約の中で作品を描くことを常に求められました。

現代に置き換えると絵師は画家というより、依頼主の要望に沿って制約の中で制作する"デザイナー"に近いと言えます。英語の書物では"designed by Hokusai"と訳されているのも納得です。

ここで、水の流れを巧みに表現し北斎の非凡なデザインセンスを垣間見れる「諸国滝廻り」シリーズの一図、「下野黒髪山きりふりの滝」を見てみましょう。

下野黒髪山きりふりの滝

水が流れ落ちる途中、岩に当たって霧のような飛沫から"霧降の滝"と呼ばれる所以とされたそうです。

勢いよく幾筋にも砕け分かれて、岩肌を這うように流れ落ちる水が、北斎の手にかかると見事にデザインされ、より一層印象強いものになっています。

<北斎流にデザインされた水の流れ>

 

罌粟

では、「罌粟」の場合はどうでしょう。

強風にあおられしなやかになびく罌粟の花は、ただ単に見たまま写生したわけではなく、画面全体を使ってダイナミックに描かれています。北斎は本図の中に、目に見えないはずの"風"をデザインし、見事に表現したと言えるでしょう。

<目に見えない“風”を感じさせる北斎流のデザイン>

 

偶然か?意図的か?ビックウェーブが隠れている!?

水色一色の背景に画面いっぱいに揺れる罌粟の花だけを配した構図。風に吹かれて揺れる姿とはいえ、不自然とも言えるかたちで描かれています。北斎はなぜこのように描いたのでしょうか。

画面右上部に大きく空間を持たせた配置、どこかで見たことのある構図ではないでしょうか。ではそのままの縮尺で、本図と誰もが知る名作「神奈川沖浪裏」を重ねてみましょう。


なんということでしょう!腰をくねらせた「罌粟」の花と「神奈川沖浪裏」の大波がこんなにもピッタリと重なるくらい同じ構図がとられています。この二図に共通するダイナミックな構図は、風や波といった動きのあるものを表現するのに最適だったのではないでしょうか。


罌粟

前回のコラムでもご紹介した作品によって描き分ける北斎の"静"と"動"の表現。赤富士が堂々とそびえる「凱風快晴」が"静"ならば、大迫力の波を描いた「神奈川沖浪裏」は"動"。

特に水や風、波など留まることのない"動"の一瞬を切り取り、表現することに長ける北斎ならではの構図への探究心が「罌粟」を生み出したのではないでしょうか。

 

次回は、木版画制作の技術をご紹介しながら、アダチ版画ならではの制作の視点から本図の魅力をご紹介します。
乞うご期待!

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アダチセレクト「話題の一枚。」

 

ふわりと開いた罌粟の花が風に大きくしなる一瞬を捉えた一枚。
本図は、今年日本中を巡回し間もなく上野で開催されるボストン美術館の名品を集めた北斎展にも登場し、注目を浴びている作品です。

今回のアダチセレクト 「話題の一枚。」は今、国内外で静かな人気を呼んでいる葛飾北斎の花鳥画「罌粟」をご紹介いたします。第一回目は導入編。まずこの作品を含む花鳥画のシリーズ全体から見ていきたいと思います。

罌粟

 

葛飾北斎が描いた花鳥画の傑作シリーズ

代表作「冨嶽三十六景」をはじめとする風景画で知られる北斎ですが、花鳥画においても数々の優れた作品を描いています。中でも大判の画面を横長に使った全10図からなるこの花鳥画集は傑作揃いのシリーズです。

あやめにきりぎりす 百合 牡丹に蝶 桔梗に蜻蛉 菊に虻
あやめにきりぎりす 百合 牡丹に蝶 桔梗に蜻蛉 菊に虻
朝顔に雨蛙 桧扇 紫陽花に燕 芙蓉に雀 罌粟
朝顔に雨蛙 桧扇 紫陽花に燕 芙蓉に雀 罌粟

 

傑作を生み出す鋭い観察眼と自在な表現方法

北斎の花鳥画を見てまず驚くのはその造形の細かさと正確さではないでしょうか。

例えば本シリーズの中の「菊に虻」は、繊細な細い線でボリュームのある花びらの一枚一枚や特徴のある葉の形だけでなく、風に翻った葉の裏表まで描き分けています。

菊に虻
<細かく正確な線で描きこまれた花>

菊に虻

また一方で「芙蓉に雀」などは葉の部分はあえてざっくり描写し、繊細に描かれた花びらに存在感を持たせており、様々な表現に挑む挑戦的な姿勢も伺えます。

<勢いを感じるざっくりした筆遣い>

では、今回取り上げた「罌粟」はどのように描かれているのでしょうか。

花びらの部分はどちらかと言うと細かな線で写実的に表現する一方、葉の部分はあまり線を描きこまず、色の濃淡で明るい部分と影になる部分のコントラストを強調しています。全体の輪郭線にも太さの強弱がついており、筆の勢いが風に揺れる罌粟の躍動感を見事に表現しています。

罌粟
<写実的な花と濃淡で見せる葉>

対象を細部に至るまで観察し、その特徴にあった多彩な表現方法を組み合わせることで生まれる生き生きとした存在感が、この花鳥画シリーズの見どころのひとつです。


一瞬の美を描く「静」と「動」

また、本シリーズの最も特徴的な点といえば、作品によって「静」と「動」という要素を効果的に用いているというところです。
北斎の二大代表作「凱風快晴」と「神奈川沖浪裏」は、前者が「静」後者が「動」を感じさせる作品として良く比較されますが、本シリーズも風が止み静止した瞬間の静かな美しさを描いた「静」の作品と、逆に風に動いた一瞬を捉えた「動」の作品の二つに分けてみることが出来ます。

そのため作品それぞれのみならず、シリーズ全体を通して眺めたときにも「静」と「動」のリズムが見る者を飽きさせないところが、この花鳥画の最も傑出した点と言えるでしょう。

例えば「静」の作品に分けられる「あやめにきりぎりす」は、ぴんと張った葉や花の茎が凛とした緊張感を生み出しています。花に隠れるキリギリスもじっとしていながら、少しの風が吹けば今にも飛び出してきそうな印象です。

あやめにきりぎりす
<静けさを感じるぴんと伸びた葉>

そして「動」に分けられる中でも代表的な作品がこの「罌粟」になります。

大きく柔らかな花弁が風にあおられてたわみ、それにつられて細い茎が大きくしなる様子は、ケシの花の質感や特徴をよく表しています。

この躍動感のある作品はシリーズ中で最も風を感じさせ、ケシの花の可憐さやたおやかさを見事に印象付けています。
花の最も引き立つ瞬間に合わせて、風や空気感までも描き分ける北斎の技量がいかんなく発揮された完成度の高い傑作です。

罌粟
<風によって大きくしなる茎>

それでは次回は、このシリーズの中でも白眉の作品「罌粟」の意外な秘密に迫りたいと思います。
可憐な花鳥画に隠された北斎の仕掛けとは!?どうぞ次回もお楽しみに!

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現在開催中、および今月開催のオススメ浮世絵展覧会をご紹介します!
各地で芸術の秋を満喫する魅力的な浮世絵の展覧会が目白押しです。

 

◆ 今月のPick up!オススメ浮世絵展覧会


 

名古屋、神戸、北九州と各地で大好評のうちに終了した展覧会「ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎」がついに東京・上野の森美術館へやってきます!

 

世界で最初に本格的な北斎の展覧会を開催したとされる、ボストン美術館所蔵の貴重な浮世絵140点が展示。門外不出と言われ、近年までほとんど公開されることのなかった北斎の浮世絵が120年の時を経て日本に里帰りしています。

また会場出口では、アダチ版復刻浮世絵を手に取ってじっくりご覧いただけます。芸術の秋を存分に楽しめる展覧会、ぜひこの機会にお立ち寄りください。



 
 
上野の森美術館 (東京 上野)
ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎
2014年9月13日(土)~11月9日(日)



◆ アダチ版復刻浮世絵の取り扱いがある美術館・博物館

下記でご紹介する美術館・博物館では、常時アダチ版復刻浮世絵をお求めいただけます。(お求めいただけない商品もございますので、ご了承ください。)


太田記念美術館 (東京 原宿)
特別展 江戸妖怪大図鑑
2014年7月1日(火)~9月25日(木)


静岡県東海道広重美術館 (静岡 由比)
江戸と明治の天才 広重×香山
-世界が絶賛した浮世絵と幻のやきもの-
2014年9月13日(土)~11月16日(日)


中山道広重美術館 (岐阜 恵那)
特別展観「木曽海道六拾九次之内」
2014年8月28日(木)~9月28日(日)

 

MOA美術館 (静岡 熱海)
北斎「冨嶽三十六景」
2014年9月6日(土)~9月24日(水)


広重美術館 (山形 天童)
広重の画業
2014年8月29日(金)~9月29日(月)

 
 

北斎館 (長野 小布施)
秋の館蔵 肉筆名作選
2014年9月11日(木)~11月24日(月)


東京国立博物館 (東京 上野)
浮世絵と衣装-江戸(浮世絵)
2014年9月2日(火)~9月28日(日)

 

◆ その他、オススメの浮世絵展覧会

会場出口にてアダチ版浮世絵販売あり!

世田谷美術館 (東京 世田谷)
ボストン美術館
華麗なるジャポニスム展
2014年6月28日(土)~9月15日(月・祝)


山種美術館 (東京 広尾)
水の音-広重から千住博まで-
2014年7月19日(土)~9月15日(月・祝)


和泉市久保惣記念美術館 (大阪 和泉市)
常設展 広重の東海道
-十二種類の五十三次-
2014年8月9日(土)~9月23日(火・祝)

品質へのこだわり

品質へのこだわり

アダチの浮世絵は、手にして初めて分かる、熟練の技術と日本の伝統が詰まっています。

製作工程

制作工程

一切機械を使うことなく一枚一枚職人の手仕事により丁寧に作られている木版画です。

厳選素材・道具

厳選素材・道具

江戸当時の風情を感じられる当時の浮世絵の再現にこだわり、厳選した素材と道具を使用。

職人紹介

職人紹介

最高の作品を創り出すために、日々技術の研鑽を積む熟練の職人たち。

浮世絵の基礎知識

浮世絵の基礎知識

意外と知らない?浮世絵の世界。浮世絵の基礎知識をご紹介。