この度アダチ版画の新作復刻版が完成しました。
近年、最も注目を集めている浮世絵師・歌川国芳が手掛けた武者絵の傑作「国芳もやう正札附現金男 野晒悟助」と猫を描いた三枚続「たとゑ尽の内」の、2点同時の復刻です。
今回はその内の「国芳もやう正札附現金男 野晒悟助」の魅力に迫ります。
奇想とユーモアと「猫」の絵師・歌川国芳
本図を描いた歌川国芳は主に幕末に活躍した浮世絵師。「東海道五十三次」で有名な歌川広重と同じ年の生まれです。 当時ブームとなっていた中国の伝奇歴史小説、水滸伝の登場人物を描いた武者絵で人気となり「武者絵の国芳」と言われました。武者絵以外にも美人画、役者絵、風景画、戯画など幅広いジャンルで膨大な作品を描いています。
生粋の江戸っ子であったと伝えられる国芳の作品は、奇抜な着想とユーモアに富み、江戸の人々に広く愛されました。また無類の猫好きとしても有名で、猫をモチーフにした作品も数多く手がけました。本図もまた猫にちなんだ作品です。
江戸っ子に大人気のヒーロー!野晒悟助
本図に描かれた野晒悟助は山東京伝の読本「本朝酔菩提(すいぼだい)全伝」を題材とし河竹黙阿弥が脚色した歌舞伎「粋菩提悟道野晒」の主人公。
強きを挫き弱きを助ける任侠の徒で、「人の災いを省くこと髑髏の目の中の草を抜くが如くすべし」という意味で野晒(野に放置されたしゃれこうべ)模様の着物を身に付けていたとされています。
テレビのない江戸時代、小説や歌舞伎で活躍するヒーローを色鮮やかに描いた武者絵は江戸庶民に人気の娯楽でした。
刀に手を掛け今にも抜こうとする野晒悟助の姿を臨場感たっぷりに描いた本図は「武者絵の国芳」の傑作といえる一枚です。 |
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<ドクロの着物がトレードマークのヒーロー、野晒悟助。> |
まるでだまし絵!拘り抜いた国芳のデザイン
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一見すると猫とは関係なさそうな本図ですが、野晒悟助のトレードマークであるドクロ模様の着物をよく見ると、猫が集まってドクロの形を作っています。
題名に「国芳もやう」とある通り、本図は国芳オリジナルの着物のデザインが見どころのひとつ。猫好きの国芳らしい遊び心です。 |
<猫が集まってドクロになっている、猫好き国芳の遊び心溢れるデザイン。> |
この他にも袈裟は蓮の花や葉で出来たドクロとススキを併せて野晒を表現し、下駄の鼻緒はドクロの目にススキを通したようなデザインで「髑髏の目の中の草を抜くが如く」という悟助のイメージに併せているのがわかります。
まるでだまし絵のようなデザインの面白さと画題のイメージに合わせた凝ったモチーフの選び方に、国芳の拘りとユーモアが感じられます。 |
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<野晒悟助のイメージに合わせたデザインです。> |
職人に訊く!プロフェッショナルの拘り!
画面の至る所に国芳の拘りが詰まった本図ですが、分業で制作される浮世絵には絵師だけではなく彫師・摺師といった職人たちの拘りも密かに詰まっています。
今回の復刻にあたってアダチ版画の彫師・摺師が拘った制作のポイントを訊ねてみました。
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彫師・岸
「何といってもやっぱり髪の生え際ですね。特に集中して彫りました。国芳は、髪だけじゃなくて目元にもまつ毛が細かく描き込んであるので、そこも気を使って彫っています」 |
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<かつては専門の職人がいたほど難しい、髪の生え際や目元のまつ毛の細かな毛彫り。> |
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摺師・仲田
「野晒悟助の輪郭線は、髪の毛は細い線で繊細に表現している反面、目元や、着物など体の辺り は勢 いのある太い線で人物の力強い動きを表現している。細い線は潰れないよう丁寧に、太い線は力を入れてしっかりと、力の加減をしながら彫師の彫った線を最大限生かすように摺ったね」 |
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<髪や目元は丁寧に、体の線はしっかり力を入れて、場所によって摺り方を変えています。> |
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絵師の筆に忠実に細い髪の一本一本まで彫り上げる彫師、彫師が彫った線を最も生かせるように摺る摺師、それぞれのプロフェッショナルが技を尽くして一枚の浮世絵が完成しているのが改めて感じられますね。作品をご覧の際はぜひご注目ください!
次回はもう一点の新作「たとゑ尽の内」をご紹介します。どうぞお楽しみに!
歌川国芳 「国芳もやう正札附現金男 野晒悟助」 商品詳細はこちら >>