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大寒を過ぎ、一段と寒さが厳しい日々が続く本日、目白ショールームでは「梅・桃」をテーマに展示替えを行いました。ゴッホが模写したことで知られる広重の名作「亀戸梅屋舗」をはじめ、季節感あふれる花鳥画など約30点をご覧いただけます。

また、千葉市美術館で開催中の展覧会にあわせ、フルカラーの錦絵が誕生する前の「初期浮世絵」と呼ばれる作品も展示中。墨一色の線を摺った後に、一枚一枚手で彩色した「市川団十郎 竹抜き五郎」など、初期浮世絵の傑作をお楽しみいただけます。

ぜひ、目白ショールームへお越しください。
https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/showroom/

初期浮世絵


あっという間に小正月も過ぎてしまいましたが今年のお正月は、皆さんはどうお過ごしになられましたか?各地で開催されていた展覧会に足を運ばれた方も多くいらしたのではないでしょうか?


中でも1月9日から始まった千葉市美術館の「初期浮世絵」展は、大変評判が良く、特に浮世絵好きの方々の間ではイチオシの展覧会となっているようです。

そこで、アダチ版画では展覧会に合わせ、これまで復刻した初期浮世絵の中から傑作をご紹介する事にいたしました!

初期浮世絵展チラシ

初期浮世絵って何?

今回タイトルにもある「初期浮世絵」とは、どんな浮世絵をさすかご存知ですか?
文字通り、最初の頃の浮世絵という意味ですが、それは、北斎や広重の作品のような多色摺りの浮世絵、つまり「錦絵」より前に作られた浮世絵の総称として使われています。つまり、多色摺が可能になる以前ですから、墨一色の墨摺絵やそれに彩色したもの、そして2~3色のみ簡単に版で色を加えた浮世絵などです。

ここに、代表的な作品をご紹介しましょう。


初期浮世絵の変遷 江戸庶民の色への憧れ

墨摺絵

江戸に幕府が移り、そこに生活する人々の暮らしも落ち着いたころでしょう。浮世絵の祖として有名な菱川師宣は、「見返り美人」など肉筆の名品に加え、墨一色の版画(墨摺絵)を残しています。

菱川師宣「秋野嬉戯」

17世紀後期、墨一色の絵本から始まり、さらに挿絵から一枚の絵として独立した浮世絵が出版されるようになったようです。

江戸の人に重要な娯楽であった吉原や歌舞伎に関係したもの、そして春画やあぶな絵も描いています。

菱川師宣 「秋野嬉戯

 

彩色した浮世絵

初代鳥居清倍「春愛でる美人」 石川豊信「桜に短冊を結ぶ娘」

テレビや新聞・雑誌なども白黒からカラーへと変化していったように、いつの時代もより色鮮やかなものに人々は憧れを持つようです。

浮世絵の世界も同じく、墨一色だった浮世絵では飽き足らず、次第に買った人が自分で彩色したり、彩色した浮世絵が売り出されるようになります。使う色によって丹絵・紅絵・漆絵など様々なタイプの彩色浮世絵が出てきます。

左/ 初代鳥居清倍 「春愛でる美人
右/ 石川豊信 「桜に短冊を結ぶ娘

 

紅摺絵

石川豊信「中村喜代三郎 文読美人」

そして、浮世絵を楽しむ人が増えてくるとより多くの人に行き渡るよう大量生産の可能性を版元そして彫師・摺師たちが探ったのでしょう。

18世紀中頃に墨の線以外、赤や緑といった2色程度の色を版で入れることができるようになったようで、2~3色で構成される紅摺絵が出現しました。

石川豊信 「中村喜代三郎 文読美人


ここまでが今回ご紹介する「初期浮世絵」になります。

そして更なる色と量産化を目指し生まれたのが皆さんおなじみ、フルカラーの浮世絵「錦絵」です!その誕生の秘密については昨年の「錦絵誕生250周年」のコラムをお読みください。


初期浮世絵の魅力 みどころ

菱川師宣が生まれる少し前、17世紀初めに現在の歌舞伎の原形が確立されたといわれています。 江戸の街の発展とともに歌舞伎が盛り上がり、人気役者のブロマイドとして出版されるようになった浮世絵が役者絵です。そして、初期浮世絵の題材に役者絵は多く描かれました。

今回は、歌舞伎界の中でも一番の人気者、市川団十郎を描いた初期浮世絵を2点ご紹介しましょう。


丹絵

初代鳥居清倍 「市川団十郎 竹抜き五郎

  初代鳥居清倍「市川団十郎 竹抜き五郎」

市川団十郎演じる歌舞伎の荒事を描いた本図は、鳥居派の画法を完成させた二代目・鳥居清倍が手掛けた墨摺りに丹を筆彩色した「丹絵」を代表する傑作。丹という絵具は、オレンジ色の厚みのある絵具で、本作品では、根の張った孟宗竹を引き抜く五郎の力強さを見事に表現しています。

初代鳥居清倍「市川団十郎 竹抜き五郎」 初代鳥居清倍「市川団十郎 竹抜き五郎」  

 

漆絵

奥村政信 「二代目市川団十郎 助六

  奥村政信「二代目市川団十郎 助六」  

市川家の十八番の中で今でも上演される「助六」を演じる二代目市川団十郎を描いた本図。衣装は漆のように光沢のある墨の彩色が施され、裾などには淡い紅も使われて柔らかい色合いが特徴的です。
見栄を切った颯爽とした助六の姿が印象的な作品に仕上がっています。

奥村政信「二代目市川団十郎 助六」 奥村政信「二代目市川団十郎 助六」  

 

初期浮世絵は、錦絵に比べると流通していた量も少なく、恐らくそのこともあってサイズも大きく迫力満点です。大きい分、絵師の筆づかいも大胆で、リズムを感じることのできる作品が多いのも特徴ではないでしょうか。今回のアダチ版画の初期浮世絵10撰をきっかけに、浮世絵創成期の作品の魅力を感じてみてください。

「初期浮世絵 傑作10撰」 商品一覧ページはこちら >>


アダチセレクト 話題の一枚
鈴木春信「二月 水辺梅」-Part1. 作品編-


2021年1月より新連載のアダチセレクト・話題の一枚。毎回一人の絵師とその作品を取り上げ、木版制作工房としての視点なども含めながら、作品とその制作背景などをご紹介していく特別企画です。

記念すべき第1回目の作品は、錦絵の祖、鈴木春信の傑作「二月 水辺梅」。川のせせらぎがだけが聞こえる静かな闇夜と白梅の芳香、そこに浮かび上がる若い男女の清純な恋の情景。まさに夢のように可憐で儚い春信ワールドの代表作です。その春信の世界や作品誕生の背景などについて、Part 1.作品編とPart2.制作編の2回に分けてご紹介します。

-Part 1.作品編-の今回は、作品と作品の時代背景などに焦点を当ててお話ししていきます。




鈴木春信「二月 水辺梅




■ 錦絵の祖、鈴木春信

「錦絵の祖」と呼ばれる鈴木春信は、1725(享保10)年頃に江戸に生まれたと言われています。春信本人の詳しい資料は残っておらず不明な点の多い春信ですが、1765(明和2)年を境に、一気にその名が知られるようになります。
この明和2年は、春信が「見当(けんとう)※」を開発、複数の色をずれの無いように摺り重ねる多色摺が可能となり、浮世絵史に革命がもたらされた年です。春信が「錦絵の祖」と呼ばれる所以は、この「見当」の開発にあります。数多くの作品を生み出した春信ですが、実際に浮世絵師として活躍したのは1760年初め頃からのほぼ10年ほどのみでした。

※見当:版木上に彫られた2か所の僅かな溝。ここに紙を合わせることによって、複数の色をずれ無く摺り重ねることができる。

<紙の位置を決めるカギ型見当(右下)と
引き付け見当(左下)>
<紙一枚分の溝が彫ってあります>


■ 錦絵の誕生と絵暦(えごよみ)

春信が、多色摺りを可能にした「見当(けんとう)」の開発に成功した背景には「絵暦(えごよみ)」の流行があります。絵暦とは、当時の年間カレンダーのようなもので、太陰暦において毎年変わる大の月(30日)と小の月(29日)を記したものです。

裕福な趣味人たちの間で、自分だけの絵暦を好みの絵師に描かせ、特注品として誂え、新春の交換会で狂歌仲間に配るという風習が大流行しました。人よりも優れた絵暦を作るためならコストを気にしない風流人たち。その熱い要望に応えるために、春信は何色も色を重ねたり、絵具は使わずに質感を生み出す特殊な摺の技法など、様々な技術や技法を生み出し、更にそれらを向上させることに成功しました。

こうして生まれた作品は、「摺物(すりもの)」と呼ばれ、贅を尽くした特注品として富裕層の間でもてはやされました。そして、この絵暦の流行に目をつけた版元が、その技術を利用し生まれた多色摺木版画を「錦絵(にしきえ)」として一般に売り出したところ、これが大人気となり、一気に庶民の手にもフルカラーの印刷物が渡ることになったのです。
 
夕立
<錦絵誕生のきっかけともなった
春信の 「夕立」>

<春信の描いた「絵暦」>

春信の描いた絵暦で有名なのが、明和2年に描かれた「夕立」です。この作品の中には、「大、二、三、五、六、八、十、メ、イ、ワ、二」と「乙、ト、リ」の文字が隠されていますが、見つけられますか?
大に続く数字は、この年の大の月、そして明和二年、乙トリも同じく明和2年を表しています。

※こたえ:「大、二、三、五、六、八、十、メ、イ、ワ、二」は、物干し棹に干された浴衣の模様の中に、「乙、ト、リ」は、突然の夕立に慌てて駆け出してきた女性の臙脂色の帯の模様の中に隠されています!




■ 和歌に想いを得て描かれた純愛 「二月 水辺梅」

今回ご紹介する春信の傑作「二月 水辺梅」。古の和歌に着想を得て描かれた「風流四季歌仙」というシリーズの中の一点です。
作品上部に記された和歌は、平経章朝臣によるもので「末むすぶひとのさへや匂ふらん 梅の下行水のなかれは」と歌われており、「下流で掬ぶ人の手さえ匂うだろうか。梅の花の下を流れてゆく水は」という意味。この歌の情景が描かれたのが本図「二月 水辺梅」。
 
 
闇夜に浮かび上がる若い男女。木製の柵の上に上り、恋する女性のために白梅を手折ろうとしている男性の姿を、石灯籠の上に頬杖をついてうっとりとみつめる女性。辺り一面に白梅の香りが漂い、その香りと共に二人の純愛も、樹下を流れる川の下流へと運ばれていきます。
梅は、春信の作品によく登場する花です。春信の手にかかると男女の純愛を描いたシーンも単なる情景ではなく、その前後のストーリーや漂う梅の香りまでが描き出されます。春信のエッセンスが凝縮された香り高い作品です。


■ 春信の描く夢の世界の住人たち

春信の描く夢のような世界に登場する人物は一様に、細身で可憐、そして中性的な特徴を持っています。春信の後の時代に一世を風靡する歌麿の美人画と比べるとその差は一目瞭然。この可憐な人物描写こそが春信の一番の魅力です。
 
<鈴木春信・二月 水辺梅より>   <喜多川歌麿・ビードロを吹く娘より>

例えばこの「二月 水辺梅」に登場する若い男女。注目すべきは、二人の目線です。二人の顔の角度はほぼ同じように描かれ、一見目線も同じように描かれているようですが、実は違います。男性は手折ろうとしている梅の枝を見ていますが、女性が見つめるのは自分のために白梅の枝を手折ろうとしてくれる恋しい人の横顔。  
  このような極めて繊細な顔や指先の表現によって、春信は人物間の感情までを描き出しています。
そして、このような春信の筆遣いを完全に再現できるのは、一流の彫師だけ。春信の小さな顔や折れそうに細い指先に命を吹き込めるかは、彫師の腕の見せ所です。


新連載「アダチセレクト・話題の一枚」第1回目、鈴木春信の「二月 水辺梅」をお楽しみいただけましたか?
春信の「二月 水辺梅」-Part1. 作品編-の今回は、主に作品とその時代背景などについてお話ししました。次回は制作面に焦点を当ててお話ししたいと思いまので、どうぞご期待ください。



春信の作品には、他のどの絵師にも作り出せない独特の空気感があります。中性的で清純でありながら、どこかエロティシズムを感じさせるようなその人物描写は、知れば知るほど虜になってしまいます。この作品以外の春信の作品もアダチ版画でご紹介しておりますので、是非ご覧ください。



  ■ 関連作品
 
       
  鈴木春信
梅折る美人
  鈴木春信
夜の梅
  鈴木春信
雪中相合傘
 

品質へのこだわり

品質へのこだわり

アダチの浮世絵は、手にして初めて分かる、熟練の技術と日本の伝統が詰まっています。

製作工程

制作工程

一切機械を使うことなく一枚一枚職人の手仕事により丁寧に作られている木版画です。

厳選素材・道具

厳選素材・道具

江戸当時の風情を感じられる当時の浮世絵の再現にこだわり、厳選した素材と道具を使用。

職人紹介

職人紹介

最高の作品を創り出すために、日々技術の研鑽を積む熟練の職人たち。

浮世絵の基礎知識

浮世絵の基礎知識

意外と知らない?浮世絵の世界。浮世絵の基礎知識をご紹介。