東京・目白に工房を構え、復刻版の浮世絵や現代木版画を制作しているアダチ版画研究所では、毎月、全国各地で行われている浮世絵の展覧会情報を更新しています。現在開催中、および3月開催のオススメ浮世絵展覧会をご紹介します!各地で魅力的な浮世絵の展覧会が目白押しです。
なお、新型コロナウイルスの影響により営業時間等が変更になる場合がございますので、必ず各館の公式HPをご確認の上お出かけください。

 

◆ 3月のPick up!オススメ展覧会

 

京都府・京都市にある京都文化博物館では、2月26日(土)より「挑む浮世絵展 国芳から芳年へ」が開催されます。

 

没後160年ということで、ますます注目を集める歌川国芳。国芳のもとには多くの弟子が集い、新しい画題や表現に挑みました。そして国芳の弟子の中でも、近年再評価をされているのが月岡芳年です。
本展では"挑む"をテーマとした5章に渡り、国芳と、芳年をはじめとする弟子たちの作品約150点を紹介。激動の幕末を斬新な視点と表現で描き、今なお人々を魅了し続ける"「芳」の系譜"を堪能できる展覧会です。

また、会場ではアダチ版復刻浮世絵や、アダチ版画が運営する浮世絵の情報サイト「北斎今昔」でご紹介している、「金魚づくしアクリルキーホルダー」の販売もございます。ぜひご来場の際にはご覧ください。



 
京都文化博物館 (京都・京都)
挑む浮世絵展 国芳から芳年へ
2月26日(土)~4月10日(日)
アダチ版復刻浮世絵の販売あり!


◆ アダチ版復刻浮世絵の取り扱いがある美術館・博物館

下記でご紹介する美術館・博物館では、常時アダチ版復刻浮世絵をお求めいただけます。(お求めいただけない商品もございますので、ご了承ください。)
「実際に復刻版の浮世絵を見てみたいけれど、目白のショールームまで来るのは難しい...」という方も、ぜひお近くの美術館・博物館でご覧いただければ幸いです。

太田記念美術館 (東京・原宿)
赤 ― 色が語る浮世絵の歴史
3月4日(金)~3月27日(日)
すみだ北斎美術館 (東京・両国)
北斎花らんまん
3月15日(火)~5月22日(日)
中山道広重美術館 (岐阜・恵那)
はるかかなたを思い描く
2月23日(火・祝)~3月27日(日)
 
東京国立博物館
(東京・上野)
浮世絵と衣装―江戸
2月1日(火)~3月6日(日)
信州小布施 北斎館
(長野・小布施)
浮世絵を楽しもう!北斎編
1月22日(土)〜3月27日(日)
静岡市東海道広重美術館
(静岡・清水)
広重と富士山
1月25日(火)~4月3日(日)

◆ その他、オススメの浮世絵展覧会


アダチ版復刻浮世絵の販売あり!

千葉市美術館
(千葉・千葉)
ジャポニスム
世界を魅了した浮世絵
1月12日(水)~3月6日(日)



町田市立国際版画美術館
(東京・町田)
江戸の滑稽
―幕末風刺画と大津絵―
3月12日(土)~4月10日(日)



森アーツセンターギャラリー
(東京・六本木)
THE HEROES 刀剣×浮世絵
1月21日(金)~3月25日(金)
 



岡田美術館
(神奈川・箱根)
花鳥風月
名画で見る日本の四季
3月6日(日)~7月10日(日)

事前予約制

神奈川県立歴史博物館
(神奈川・馬車道)
没後160年 歌川国芳の魅力
2月25日(金)~4月3日(日)



山口県立萩美術館・浦上記念館
(山口・萩)
明治の美人画 楊洲周延Ⅱ
3月15日(火)~4月10日(日)


>>その他全国の浮世絵が見られる美術館・博物館情報はこちら(※「北斎今昔」内リンク)


1月12日から始まった、千葉市美術館の「ジャポニスムー世界を魅了した浮世絵」展は、世界中の浮世絵の名品がそろっており見ごたえたっぷり。摺りや保存状態も大変よく、木版画の美しさを存分にご堪能いただけますので、浮世絵好きの皆様にはいまイチオシの展覧会です!

そして、本展で是非ご覧いただきたいのが、鈴木春信の名作3点です。
パリの宝石商アンリ・ヴェヴェールの旧蔵品であった「雨中夜詣」(東京国立博物館・松方コレクション)、そして、アメリカ・メトロポリタン美術館が所蔵する「夜の梅」と「雪中相合傘」。まさに、幕末以降海を渡り、世界を魅了した浮世絵作品です。

今回のコラムでは、この3つの春信作品の見どころをアダチ版画の復刻版でご紹介しながら、その魅力に迫ってまいります。


■ 可憐な春信美人が誘う 見立絵の世界 「雨中夜詣」



鈴木春信「雨中夜詣



「雨中夜詣」は、小田原提灯と傘を持つ年若い娘が、強い雨のなか宮詣する姿を描いた美人画です。風になびく着物や体つきのしなやかさ、そして上品で繊細な顔立ちには、幻想的な雰囲気が漂っています。

鳥居や、提灯に示された蔦の紋などの目印から、江戸時代の通人は、この美人のモデルが当時人気の水茶屋の看板娘、笠森お仙を描いたものとわかったようです。そして、さらにこの図は、能の演目として知られる「蟻通(ありどおし)」に出てくる宮守を、江戸娘に見立てて描いた「見立絵」であると言われています。

<提灯にうっすらと見える蔦の紋>
 
<お人形めいた顔立ちの春信美人>

このように教養豊かな趣味人たちに愛されていた春信ならではの趣向を凝らした画題ですが、そうした背景を知らない人が見ても、中性的で清純でありながらもどこかエロティシズムを感じさせるような、春信特有の表現に惹きつけられる作品です。
本作が海外でも評価されたのは、構図や描かれた女性の上品さなど、作品全体から醸し出される雰囲気が魅力的だったのではないでしょうか。



■ 和紙の白を最大限に活かす、多彩な黒の表現 「夜の梅」



鈴木春信「夜の梅



多色摺りを生み出した春信が、この技術を利用して表現したものはカラフルな色彩だけではありませんでした。
こちらの「夜の梅」は、手燭を掲げる美人と白梅の姿が浮かび上がる闇夜の情景を描いた格調高い一枚です。この作品で特に印象的に映るのが、夜を表現した「黒」の背景です。

   

漆黒の背景は、膠(にかわ)分を除いた墨で摺られており、和紙という素材と相まって独特の質感が生まれます。油性のインクでは生まれないマットな黒は、ある意味西洋の人々には新鮮に映ったのではないでしょうか。


<アダチ版画では墨を水を張った甕に浸し、時々上澄み液を取り替えながら、膠分をゆっくりと除いていきます。こうして甕の底に沈殿した膠分の抜けた墨をすり鉢ですることで、粒子の細かい艶やかで照りのある墨に仕上げていきます。>

春信は、黒を大胆に配色することで、作品の見せ場である白梅そして女性の方へ視点を集中させる効果を生み出しています。こうした黒の使い方は、黒を扱いづらい色としてきた西洋の画家たちに大きな影響を与えました。



■ 惜しみなく技巧を凝らした傑作 「雪中相合傘」



鈴木春信「雪中相合傘



こちらは春信の傑作「雪中相合傘」。一面の銀世界に、対照的な黒と白の着物を身に着け、寄り添いあって歩く男女が一組。一つの傘の中、口をつぐんだままお互いを慈しむような視線を交わす若い二人の胸中を想像させる、叙情的な作品です。

こうしたどこか夢のような世界観に、浮世絵を手にした人々が入り込んでいけるよう、春信は「空摺(からずり)」や「きめ出し」といった、和紙という素材を活かし、作品に立体感を持たせる技法を用いています。

<男女の着物に施された繊細な模様>
 
<版木に絵の具をつけずに摺ることで、和紙に凹凸をつける「空摺(からずり)」の技法です>


<地面には雪が降り積もったかのような立体的な線>
 
<「きめ出し」では、板の窪んだ部分を紙の裏から刷毛で叩くように隆起させます>

春信の浮世絵には、シンプルな構成ながらも木版ならではの技巧が凝らされており、手にした人々を喜ばせるための試行錯誤が垣間見られます。こうした工夫は、江戸の人々だけでなく西洋の人々をも驚かせたことでしょう。


■ 豊かな表現が魅力的な春信の浮世絵

今回ご紹介した3点の作品をはじめとする春信の浮世絵には、北斎や広重の時代の浮世絵とは異なる品格が感じられます。それはその制作背景に、錦絵草創期を支えた裕福な趣味人たちの存在があったからでしょう。

春信は、彼らの熱い要望に応えようと、多色摺を可能にする「見当」の開発を実現し、錦絵を誕生させました。そして、贅を尽くして作られた春信の浮世絵は、厚みがある上質の和紙を用い、和紙そのものの持つ風合いを存分に生かす「空摺」や「きめだし」といった様々な技法を駆使し、豊かな表現を生み出しました。

こうした春信の作品にみられる豊かな浮世絵の表現や日本人らしい美意識が、西洋の人々に評価され、ジャポニスムの中に息づいていったのではないでしょうか。


アダチのHPでは、今回ご紹介した3作品以外にも、春信らしい魅力の詰まった浮世絵をご案内しています。ぜひアダチの復刻版で、お手に取ってお楽しみください。

  ■ 今回ご紹介した作品
 
       
  鈴木春信
雨中夜詣
  鈴木春信
夜の梅
  鈴木春信
雪中相合傘
 

  ■ 関連作品
 
       
  鈴木春信
見立芦葉達磨
  鈴木春信
二月 水辺梅
  鈴木春信
雪中鷺娘
 



「雨中夜詣」増刷決定!
長らく在庫切れとなっていた本作品ですが、このたび増刷が決定いたしました!現在、送料無料にてご予約承り中。3月上旬のお届け予定です。


その他の鈴木春信の浮世絵はこちら >>


春信やジャポニスムについて気になった方はぜひ、展覧会に足を運んでみてくださいね。また、詳しい展覧会レポートをアダチ版画研究所が運営する情報サイト「北斎今昔」で公開中。こちらもぜひチェックしてみてください。



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■江戸のイマジネーションが羽ばたく

アダチ版復刻浮世絵によるスマートフォン用の壁紙は、多くの方に日常生活の中で浮世絵をより身近に楽しんでいただけるよう、月に一度、第一火曜日に新作を公開します。2022年2月の壁紙は、空飛ぶ鳥の視点から雪景色の深川を描いた「深川洲崎十万坪」です。

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スマホ用壁紙(2022年2月版)ダウンロードはこちら
※画像はアダチ版画研究所が制作した復刻版浮世絵を使用しています。
※個人で楽しむ範囲でご利用ください。商用利用、再配布禁止。

■この壁紙に使用されている作品は?

歌川広重の「名所江戸百景」は、広重最晩年の風景画の一大連作。江戸およびその近郊の名所を四季折々の情緒と共に描いた縦型構図の風景画シリーズで、その数は120図にも及びます。ゴッホが模写したことで知られる「大はしあたけの夕立」などともに人気が高いのが、本作「深川洲崎十万坪」。ヘリコプターもドローンもなかった時代に、広重はどのように、この鳥瞰の視点を獲得したのでしょうか。
深川の洲崎は、日の出や潮干狩りの名所。ただし広重が描いたのは「十万坪」と言われた洲崎の広大な埋立地でした。人影のない海辺の雪景色を見下ろす孤高の鷹。抑制された色遣いの中に、冠冒の赤が利いていますね。

歌川広重「深川洲崎十万坪」商品ページはこちら


品質へのこだわり

品質へのこだわり

アダチの浮世絵は、手にして初めて分かる、熟練の技術と日本の伝統が詰まっています。

製作工程

制作工程

一切機械を使うことなく一枚一枚職人の手仕事により丁寧に作られている木版画です。

厳選素材・道具

厳選素材・道具

江戸当時の風情を感じられる当時の浮世絵の再現にこだわり、厳選した素材と道具を使用。

職人紹介

職人紹介

最高の作品を創り出すために、日々技術の研鑽を積む熟練の職人たち。

浮世絵の基礎知識

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意外と知らない?浮世絵の世界。浮世絵の基礎知識をご紹介。