東京・目白に工房を構え、復刻版の浮世絵や現代木版画を制作しているアダチ版画研究所では、毎月、全国各地で行われている浮世絵の展覧会情報を更新しています。現在開催中、および6月開催のオススメ浮世絵展覧会をご紹介します!各地で魅力的な浮世絵の展覧会が目白押しです。
なお、新型コロナウイルスの影響により営業時間等が変更になる場合がございますので、必ず各館の公式HPをご確認の上お出かけください。

 

◆ 6月のPick up!オススメ展覧会

 

東京・原宿にある太田記念美術館では現在、企画展「北斎とライバルたち」が開催されています。

 

世界で最も有名な絵師・葛飾北斎は「冨嶽三十六景」に代表される風景画のほか、さまざまなジャンルを手掛け、高い名声を得ました。そして北斎と同時代に生きた数多くの浮世絵師たちが、時には北斎と覇権を争い、互いに影響を受け合っていたのです。
本展では、北斎の作品に注目するだけでなく、同時代・次世代に活躍した総勢15名以上の絵師たちの作品を並べることで、北斎とライバルたちがどのような関係にあったのかを紹介いたします。

また、アダチ版画が運営する浮世絵の情報サイト「北斎今昔」では、前期展示(※5月22日に終了)をレポート。前期・後期で全点入れ替えの為、現在開催されている後期展示では記事内の作品をご覧いただくことはできませんが、ぜひ展覧会の雰囲気をお楽しみいただければ幸いです。

北斎の飽くなき探究心に触れる。太田記念美術館「北斎とライバルたち」展レポート>>



 
太田記念美術館 (東京・原宿)
北斎とライバルたち
4月22日(金)~6月26日(日)



◆ アダチ版復刻浮世絵の取り扱いがある美術館・博物館

下記でご紹介する美術館・博物館では、常時アダチ版復刻浮世絵をお求めいただけます。(お求めいただけない商品もございますので、ご了承ください。) 「実際に復刻版の浮世絵を見てみたいけれど、目白のショールームまで来るのは難しい...」という方も、ぜひお近くの美術館・博物館でご覧いただければ幸いです。

すみだ北斎美術館 (東京・両国)
北斎 百鬼見参
6月21日(火)〜8月28日(日)
静岡市東海道広重美術館 (静岡・清水)
江戸名所四日めぐり
4月5日(火)~7月10日(日)
中山道広重美術館 (岐阜・恵那)
北斎百様
3月31日(木)~6月19日(日)
 
東京国立博物館 (東京・上野)
浮世絵と衣装―江戸
通年展示
MOA美術館 (静岡・熱海)
冨嶽三十六景と東海道五十三次
5月13日(金)~7月18日(月)
信州小布施 北斎館 (長野・小布施)
わくわく!WORK
6月18日(土)~8月28日(日)

◆ その他、オススメの浮世絵展覧会


アダチ版復刻浮世絵の販売あり!

サントリー美術館 (東京・六本木)
大英博物館 北斎
―国内の肉筆画の名品とともに―
4月16日(土)~6月12日(日)

アダチ版復刻浮世絵の販売あり!

九州国立博物館 (福岡・大宰府)
特別展
北斎
4月16日(土)~6月12日(日)



新潟県立万代島美術館 (新潟・新潟)
ボストン美術館所蔵
THE HEROES 刀剣×浮世絵
4月23日(土)~6月19日(日)
 
ガスミュージアム
(東京・小平)
鉄道と駅
4月 29日(金・祝)~7月3日(日)
貨幣・浮世絵ミュージアム
(愛知・名古屋)
狂歌入東海道-江戸の遊び心
5月11日(水)~7月31日(日)
島根県立美術館
(島根・松江)
北斎コレクション 第1期
6月1日(水)~6月27日(月)


>>その他全国の浮世絵が見られる美術館・博物館情報はこちら(※「北斎今昔」内リンク)


飾って楽しむアダチの浮世絵
お客様インタビュー~浮世絵のある暮らし~ 第6回


昨年からスタートした企画「お客様インタビュー〜浮世絵のある暮らし〜」では、お客様にアダチの浮世絵の、ご自宅での楽しみ方を伺っています。

今回お話を伺うのは、ライティングデザイナーの武石正宣さん。昨年、展覧会の出口販売でアダチ版画の浮世絵を購入されたのをきっかけに、北斎の『諸国滝廻り』をシリーズで楽しまれています。
作品への強い思い入れや、こだわりの特注額での飾り方をご自身の趣味やお仕事の話も交えながらお話してくださいました。ぜひ最後までお楽しみください!



 


今回お話をお伺いした武石正宣さん
(ICE都市環境照明研究所 所長 ライティングディレクター)


1959年        横浜出身
1982年        多摩美術大学 建築科卒業
1983〜89年   株式会社 ウシオスペックス
1990〜95年   株式会社 海藤オフィス チ-フデザイナ-
1996年        有限会社 ICE 都市環境照明研究所 設立
 

 





■ 展覧会の出口販売で見た復刻版の色に衝撃を受けた

今回は武石さんが所長を務めるICE都市環境照明研究所にお伺いします。玄関を入ると、さっそく弊社の『諸国滝廻り』を飾ってくださっていました。


―本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。
『諸国滝廻り』、早速拝見いたしました!入口に飾ってくださっているとは思わず、とても驚きました。
 
武石さん: 「はい、玄関に飾っているんですよ。」
 

―武石さまがアダチ版画のショールームにお越しくださったのは、浮世絵展の出口販売がきっかけでしたよね。
 
武石さん: 「はい。六本木のミッドタウンで昨年開催していた「北斎づくし」展の物販会場に、アダチ版画さんのショップが出ていたので立ち寄りました。
展覧会の会場の中に展示されていた、オリジナルの作品の素晴らしさはもちろんでしたが、復刻版の色合いをみて"当時の人たちはこんなに鮮やかな色合いを楽しんでいたのか!"とハッとしたのを覚えています。」
 

―そう言っていただけてうれしいです。その会場でも作品を購入していただいたと聞いていますが、どちらの作品でしょうか?
 
武石さん: 「北斎の『甲州石班沢』を購入しました。作品の購入にはいろいろなきっかけがあると思うのですが、僕は特に、木版画の"色"が好きなんですよね。はっきりとした鮮やかな色にまず驚きました。昔から青や藍色が好きだったので、藍摺の表現が素晴らしいこの作品を、まずは飾ってみよう!と。今も自宅で毎日眺めて楽しんでいますよ。」
 


葛飾北斎「甲州石班沢

―武石さんが手掛けられたすみだ水族館の照明も館内全体を包み込むような青が印象的ですね。
 
武石さん: 「仕事では、もちろん場所に合わせて照明を手掛けていますが、どちらかというと青い光を使うことが多いかもしれません。 "青"は舞台や映画などで夜を表すために用いられていたり、意外と普段から私たちに馴染みのある色なんです。個人的には静かなものの方が好きなこともあって、青い色は好きですね。うちの会社の名刺のロゴも藍色です。」
 

―北斎の浮世絵にも、藍色が基調となっている作品は多いですよね。もともと浮世絵はお好きだったのでしょうか。
 
武石さん: 「はい。やはり日本人として、興味はありましたね。すみだ北斎美術館に行ったり、浮世絵のコレクターの方にお話をうかがったり。また、アダチ版画さんで購入した北斎の『あやめにきりぎりす』や『藤に鶺鴒』を友人にプレゼントしました。」
 

―贈り物としてもお使いいただいてありがとうございます! そうして『諸国滝廻り』に興味を持たれたのは、どういったきっかけなのでしょうか?
 
武石さん: 「僕、海よりも、滝や湖がすごく好きなんですね。それで美術館や、アダチ版画さんの復刻版で色々な浮世絵をみていくうちにこの8図のシリーズを知って、調べ始めました。」
 

―実際にショールームで復刻版をご覧になっていかがでしたか?
 

葛飾北斎「下野黒髪山きりふりの滝
 

葛飾北斎「木曾路ノ奥阿弥陀の滝
 
 
武石さん: 「まず感動したのは、この水の描写でした。8図の中でひとつとして同じ水の表現が無いんですよね。どれも西洋画では見たことない表現ですし、今の漫画やグラフィックデザインのルーツとなる要素も含まれているように思いました。」
 




■ 8図揃いでみせるこだわりの特注額

8枚の中で一番好きな作品を伺うと、すごく悩まれながら「8図ともすべて」、とのこと。
 
武石さん: 「8図揃いで見るのが一番好きなんです。8枚並んでいるからこそ、それぞれの作品によって水の描かれ方がこれだけ違うんだ!というのが分かるでしょう。」
 

8図揃いで観ることに強い思い入れがあるのが伝わってきます。そして、ショールームでスタッフと相談をしながら決められたのは、作品を4図ずつ額装することのできる特注額。

棹の色も、お好きな青系の濃紺を選ばれました。

アダチ版画では、棹の形や色、大きさが選べる特注額での額装も行っています。武石さんのように、実際にショールームで見本を見ながら決めていただくのがおすすめです。
 

―作品の順番もご自身で決められたのですか?
 
武石さん: 「実際の作品をテーブルに並べてバランスを見ながら決めました。」
 

―セットで購入される場合、作品を差し替えて楽しまれる方が多いので、こういった全図を見せるような額のオーダーはこれまであまりなかったんです。私たちとしても、新しい飾り方のご提案として、すごく参考になりました。
 
武石さん: 「お客様がいらっしゃるたびに、一図ずつ出して見せたりするのも大変ですし、『諸国滝廻り』については、雪や花など季節を特定するものが描かれているわけではないから、通年飾っていられます。この額装にした決め手のひとつですね。
それに『富嶽三十六景』(全46図)や『東海道五十三次』(全55図)を一気に飾りたいと思っても、数が数ですし、すごく広い部屋じゃないと、なかなか難しいじゃないですか。(笑)『諸国滝廻り』のように8図ならこういった見せ方もできるな、と思って相談をしました。」
 

―飾る場所も事前に決めていらっしゃったのでしょうか。
 
武石さん: 「結構悩みましたね。仕事柄、壁面を使って照明の実験をすることもあるので、どうしても飾れる場所が限られてしまうんです。応接室に飾ることも考えましたが、自分が毎日見ることができる場所がいいな、と思った結果、玄関に落ち着きました。」
 

ここで武石さんと、作品の飾ってある玄関へと移動します。

―普段私たちも8図を並べて観る機会は少ないので、本当に圧巻です。シリーズを通して見るからこそわかる作品の緩急が、すごくよく伝わってきますね!


 
武石さん: 「いやあ、見事ですよね!上段の4枚は勇壮な水の流れが見事ですし、下段の4枚は、水流は静かですがその土地ごとの風景や、人々の描写が面白いんですよね。観光地だったり大自然の中だったり、滝というテーマだけで、これだけ振り幅があるなんて、北斎の発想は本当にすごい。すごく満足しています。」
 

作品を見ながら熱くお話くださる様子に、武石さんがこのシリーズを心から楽しんでくださっているのが伝わり、お話も弾みます。

―来客の方も多いということで、なにかその方々からの反応はありますか?
 
武石さん: 「打ち合わせに来られた人たちとは、この絵を見ながら会話をします。一番みんなの反応がいいのが、この溜池を描いた東都葵ヶ岡の滝』。これは今の赤坂あたりにあったんだよ、と言うと皆さん驚かれます。」
 


葛飾北斎「東都葵ケ岡の滝
現在、日本の政治の中心として知られている「永田町」の近く、
赤坂溜池に流れていた滝が描かれています。

―そうなんですね!『諸国滝廻り』のシリーズでは、やっぱりダイナミックな「下野黒髪山きりふりの滝」や「木曾路の奥阿弥陀の滝」への反応が大きいので、少し意外でした。
 
武石さん: 「シリーズの中では一番小さな規模の滝ですが、東京に住んでいる方が多いので、今とは全く異なる風景が新鮮なのだと思います。諸国滝廻りというだけあって、各地の色んな滝の景色を一気に見て回れる良さみたいなのはありますよね。」
 

―まさに江戸時代当時の人たちが楽しんでいたような楽しみ方かもしれませんね。




■ 北斎にも通ずる武石さんの照明デザイン

取材時の撮影では、照明の当て方や光の調整にもご協力くださった武石さん。作品を照らす照明を見てみると、通常の天井照明に、反射板が設置されています。
―この反射板はご自身でつけられたのですか?

武石さん: 「そうです。照明自体を変えることができなくて、最初からこの家に取り付けられている照明を使っています。この光が絵に当たるように、板を取り付けました。」
 

取材時の撮影では、照明の当て方や光の調整にもご協力くださった武石さん。作品を照らす照明を見てみると、通常の天井照明に、反射板が設置されています。作品をより美しく見せるため、ライティングデザイナーである武石さんならではの工夫にスタッフも感動。また、実はこの4図ずつの額装というのも、お仕事にまつわるものから発想を得たそうです。
 
武石さん: 「仕事で賞をいただいた際、いつ頂いたものかを分かりやすくするため、同じ年にもらった賞状は一つの額に入れて飾ってるんです。以前からこれをやっていたので『諸国滝廻り』の額装もこの方法が使えないかな、と考えました。」
 



こうした賞状やトロフィーをはじめ、研究所内には制作された照明や、ご自身で集められている現代アートがいたるところに並べられています。


20年以上前に武石さんが制作された照明。
三原色をそれぞれに光らせるスイッチがあり、気分によって色を変えることができるそう。


富山県やイギリスなど、世界中から集めたガラス工芸もディスプレイしています。
工房へ実際に足を運び、制作風景を見ることもあるそうです。

―アート作品から民芸品までジャンルレスに世界中の様々なものを取り入れていて、武石さまの好奇心の強さや、自由な発想力を感じます。
 
武石さん: 「いやいや、普段はぼーっとしています。(笑)でも、気になったものは手に入れて、自分の近くに置いて飾ったり、使ったりすると面白いですよね。」
 

スタッフが興味津々で照明のお話を伺っていると、さらにご自身が制作された照明についてもお話もしてくださいました。
 
武石さん: 「一番左側の照明は、星野リゾートさんの照明をずっとシリーズでやらせてもらっている中で、最初に制作したものです。普通の行燈は全体的に光りますが、そうすると、部屋の隅に置いていたとしてもそこが部屋の中で一番明るくなってしまう。部屋全体を照らしながら、行燈自体は落ち着かせたかったんです。だから、人に見える側は、施設の地域性を踏まえて特産品の織物などの素材で遮光して、後ろに光を集めました。」
 

―居心地の良い空間をつくるために、照明器具以外の技術や素材についても幅広い知識が必要なお仕事なんですね。
 
武石さん: 「職業柄、新しい技術もどんどん取り入れていかないといけません。日々『あ、そういうことができるんだ、じゃあ実験してみよう』と試行錯誤しながら、それぞれの技術や素材のメリット/デメリットを把握していきます。」
 

 
武石さん: 「僕はそうやって最新のものに触れるのが好きなんですけど、今は特に、物事の移り変わりがものすごく速いように思います。例えば音楽なら、昔はレコードだったものがCDになり、CDは今やデータになって流通しています。フィルムカメラからデジタルカメラへの変化もそうですし、この150年ほどの間に、電化によって私たちの生活様式は目まぐるしく変化しました。世代にしたら三代くらいの間に、です。

それらの激流に比べれば緩やかですが、照明も着々と変化していっています。LEDライトが広く一般に普及し、かつて主流だった白熱電球は、現在ではレアなものになってきました。でもそうやって、レコードも銀塩写真も白熱電球も、利便性とは別の面に、味わいや新たな価値が見出されています。こういう技術の歴史を感じられるものが、僕は結構好きなんです。」
 

古いものを大切に思いながらも、新しい技術を積極的に取り入れていく武石さんの姿勢には、国内外問わずさまざまな画法を研究し名作を生み出し続けた北斎に通ずるものがあるように思いました。最後に、武石さんが考える復刻版浮世絵の魅力についてもお話してくださいました。
 
武石さん: 「浮世絵の多色摺の技術も、開発当時は世界的に見ても非常に画期的なものでしたよね。それが近代以降は機械印刷が主流になったけれど、一方で今もこうして職人の手仕事が受け継がれている。江戸時代と同じように北斎の『諸国滝廻り』を手元に置いて楽しめるのは素敵なことだと思います。

それに、油彩画など一点もののアート作品だと、価格がものすごく高くなっちゃったり、その作品に対する思い入れが強くなりすぎたりするでしょう。復刻版画はいい意味で手軽なもの。たくさん摺られて、広く一般の人が楽しむって感覚が、すごくいいなと思います。」
 

ご自身の経験やお仕事の話も交えながら、思い入れの深い『諸国滝廻り』や浮世絵版画についての魅力をお話してくださった武石さん。「自分の照明の話をこんなにするとは思わなかった(笑)」と言われるほど、スタッフも武石さんのお仕事のお話を夢中になってうかがってしまいました。この度はご協力いただき、本当にありがとうございました!





アダチセレクト 話題の一枚
「北斎花鳥画集」-Part2. 線と面-


アダチセレクト・話題の一枚は、毎回一人の絵師とその作品を取り上げ、木版制作工房としての視点なども含めながら、作品とその制作背景などをご紹介していく連載企画です。

今回は、浮世絵とは思えないようなモダンな雰囲気が魅力の葛飾北斎の大判花鳥画シリーズをご紹介していますが、この「北斎花鳥画集」は、ガレやドーム、ラリックなど、当時西洋で最先端であったガラス工芸家たちのデザインにも取り入れられ、世界的にも高い評価を得ているシリーズです。

北斎は、 富士山、滝、橋、海、そして花鳥風月にいたるまで、この世のあらゆるもの、森羅万象の真を描き出すことに執念を燃やしてきた絵師。本シリーズのテーマである花鳥画に挑むにあたり、北斎は自然界をどのようなまなざしで見つめ、いかにして描き出そうとしたのでしょうか。

前編(Part1)では、北斎が自然を表現するのに用いたその大胆な構図に着目し、静と動の描き分けについて解明を試みました。 >>Part1はこちら

このPart2では、北斎が花鳥の「生命」を描き出した花鳥画を、北斎最大のライバル・広重の花鳥画と比較し、その作品の持つモダンな雰囲気の秘密を探りたいと思います。




葛飾北斎「北斎花鳥画集 全10図




■ 浮世絵風景画の二大巨匠、北斎・広重が描いた「花鳥画」

北斎が代表作『冨嶽三十六景』を生み出したころ、同じく風景画家として高い評価を受けていたのが、『東海道五拾三次』や『名所江戸百景』などで知られる歌川広重です。広重は北斎より30歳以上も年下でしたが、当時から、それぞれの持ち味を生かした作風で人々を魅了する、北斎の良きライバルと言える存在でした。

左)葛飾北斎「神奈川沖浪裏」「凱風快晴
右)歌川広重「日本橋 朝之景」「大はしあたけの夕立


そんな広重も北斎同様、風景画のみにとどまらず花鳥画の分野においても数多くの秀作を残しており、2人の花鳥画には同じモチーフを描いた作品も多く見られます。

葛飾北斎「紫陽花に燕 歌川広重「紫陽花に翡翠


こちらは北斎と広重が描いた「紫陽花」の花。こうして並べてみると、作品の持つ雰囲気が全く違うように感じませんか?
よく見てみると、2人の紫陽花の描き方には大きな違いがあります。その違いを詳しく見てみましょう。



■ 線の北斎・面の広重


北斎と広重、2人の紫陽花の作品について、絵師が最初に描いた下絵の線の部分のみを摺ったもの(校合摺)をご覧ください。北斎の紫陽花は既に花の形がはっきりわかりますが、広重の紫陽花はどこにも見当たりません。

葛飾北斎「紫陽花に燕」の校合摺 歌川広重「紫陽花に翡翠」の校合摺


北斎は紫陽花の小さな花弁一つ一つを強弱のついた描線で丁寧にとらえています。校合摺を見てみると、その筆致の繊細さがよくわかります。



一方、広重の紫陽花は、空摺と淡い色の面で構成されています。校合摺を見てみると、広重がいかに色の面をうまく用いて絵を構成しているかが見て取れます。




では、他のモチーフではどうでしょうか。こちらは北斎と広重が描いた「牡丹」の花です。

葛飾北斎「牡丹に蝶 歌川広重「牡丹に孔雀


北斎は、牡丹の薄くやわらかな花びらが風に翻る様子を、無駄のない描線で描き出しています。また、花の輪郭や花脈、葉脈をも繊細な線で描き、見事な色使いで花や葉の裏表が表現されています。
これに対して、広重の牡丹は、いくつかの赤の色面が組み合わされ、重なり合うことによって、気品漂う花の様子が立体的に形作られています。そしてこれにより華やかで格式高い、牡丹の理想の姿が描き出されています。





一色で塗りつぶした背景に対象物をシンプルに配置し、「線」でモチーフを写実的に描き表した北斎の花鳥画は、グラフィックアートにも似た、モダンでクールな印象を与えます。それは、北斎が物事の本質を描き表そうとするとき、「線」を重視していたからと言えるでしょう。

モダンな雰囲気を活かし、木目調の白木額でナチュラルなスタイルに。


一方、広重の花鳥画には、心に迫るような抒情性や、独特の温かみが感じられます。広重の花鳥画には、日本らしい美しさが詰まっています。それは、広重が日本人の感性や文化、理想的な美しさを描き出すために、「面」を用いた柔らかな表現を駆使しているからです。

日本らしい美しさを持つ和風のインテリアとして、洋室のアクセントに。



連載企画「アダチセレクト・話題の一枚」の、葛飾北斎『北斎花鳥画集』編。Part2である今回は、北斎と広重の花鳥画を比較し、それぞれが重視した表現に迫り、2人の絵師の魅力についてお話してきました。お楽しみいただけましたでしょうか?


○北斎花鳥画集の魅力に迫る特集を開催中!

今なお世界で高い評価を受けている浮世絵師・葛飾北斎。今年2022年の春、日本各地で大規模な「北斎」展が開催され、大きな注目が集まっています。
アダチ版画ではこの機会にもっと皆様へ北斎の魅力を知っていただきたいという思いから、2022年4月12日から2022年5月17日まで『北斎花鳥画集』の魅力に迫る特集を開催中です!


アダチ版画のHPでは、北斎花鳥画集のシリーズ全10図をご紹介中。


また、この大判花鳥画のシリーズを季節ごとに差し替えてお楽しみいただいているお客様にインタビューさせていただいた内容を記事として公開中です。


そしてアダチ版画の目白ショールームでは、北斎の自然の表現に着目した展覧会『北斎が極めた「自然の表現」』を開催中です。お近くにお越しの際には、ぜひお立ち寄りください。
※終了しました。

Part1.北斎花鳥画集〜広重との花鳥画対決でその魅力に迫る〜
展示の様子


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■傑作の構図を秘めた可憐な罌粟(けし)

アダチ版復刻浮世絵によるスマートフォン用の壁紙は、多くの方に日常生活の中で浮世絵をより身近に楽しんでいただけるよう、月に一度、第一火曜日に新作を公開します(※)。2022年5月の壁紙はダイナミックな構図の葛飾北斎の花鳥図「罌粟(けし)」です。(※2022年6月以降は3ヶ月おきの更新となります。)

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スマホ用壁紙(2022年5月版)ダウンロードはこちら
※画像はアダチ版画研究所が制作した復刻版浮世絵を使用しています。
※個人で楽しむ範囲でご利用ください。商用利用、再配布禁止。

■この壁紙に使用されている作品は?

先月の枝垂れ桜に続いて、今月も北斎の花鳥画をお届けします。北斎が代表作「富嶽三十六景」を刊行していたのとほぼ同時期に発表した10図の花鳥画の中より「罌粟(けし)」。版元(当時の出版社)も「富嶽三十六景」と同じ西村永寿堂です。富士山のシリーズの大ヒットを受け、がらりとモチーフを変えて花鳥画のシリーズを発表するところに、北斎の創意や版元の販売戦略が見え隠れしますね

とはいえ「富嶽三十六景」の成功体験もきちんと活かされています。こちらの作品のダイナミックな構図、浮世絵ファンなら見覚えがあるのではないでしょうか。そう、大波の彼方に富士山を描く北斎の最高傑作「神奈川沖浪裏」。迫り上がる波のカーブは、風に揺れる罌粟の茎と同じです。可憐な道端の花も、天才・北斎の手にかかれば、こんなにもドラマティックに。北斎のチャレンジ精神がうかがえる華やかな春の一図。(10図の花鳥画シリーズについてはこちらのコラムもご参照を。)

葛飾北斎「罌粟(けし)」商品ページはこちら


品質へのこだわり

品質へのこだわり

アダチの浮世絵は、手にして初めて分かる、熟練の技術と日本の伝統が詰まっています。

製作工程

制作工程

一切機械を使うことなく一枚一枚職人の手仕事により丁寧に作られている木版画です。

厳選素材・道具

厳選素材・道具

江戸当時の風情を感じられる当時の浮世絵の再現にこだわり、厳選した素材と道具を使用。

職人紹介

職人紹介

最高の作品を創り出すために、日々技術の研鑽を積む熟練の職人たち。

浮世絵の基礎知識

浮世絵の基礎知識

意外と知らない?浮世絵の世界。浮世絵の基礎知識をご紹介。