極上の北斎が揃う!「THE 北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」展レポート

極上の北斎が揃う!「THE 北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」展レポート

2021年7月20日より、墨田区のすみだ北斎美術館にて、企画展「THE 北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」が始まりました。すみだ北斎美術館が所蔵する二大名品、「冨嶽三十六景」シリーズと「隅田川両岸景色図巻」を中心に、葛飾北斎の名品約100点を展観する本展。この夏必見の同展をご紹介します。

「冨嶽三十六景」のすべてを知りつくす!

今回の展示は、世界的知名度を誇る名作「神奈川沖浪裏」で知られる北斎の代表作「冨嶽三十六景」シリーズを展観。前期・後期に分けて46図全てが見られるという、浮世絵ファンの皆さんには必見の展覧会となっています!

展覧会第1章では、北斎の技と着想に注目しながら「冨嶽三十六景」の魅力を大解剖。展示は、作品を豊かに読み解く6つの視点で構成されています。

西洋画の遠近法も学びながら、独自の空間表現や構図を獲得していった北斎に迫る「空間を構成する」や、富士山の三角形に直線や円弧を組み合わせた幾何学的な構図を読み解く「〇×△で作られた世界」、神秘的な富士山の表情から北斎の自然観を考察する「驚異の自然」。そして、風や音、静けさといった無形のものまでを捉え、森羅万象を描こうとした北斎の挑戦を知る「形のないものを捉える」、明確な意図をもって描かれた非現実的な情景から、北斎の仕掛けを探る「イリュージョンを仕掛ける」、そして北斎の超越した描写力と、彫師・摺師の高度な技が生み出す木版表現に注目した「超絶表現」。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨」(前期展示)すみだ北斎美術館蔵
葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨」後摺(前期展示)すみだ北斎美術館蔵
葛飾北斎「冨嶽三十六景 山下白雨」変わり図(前期展示)すみだ北斎美術館蔵

中でも前期展示の見どころは、「驚異の自然」で展示されている3つの「山下白雨」。山裾に松林が加えられた変わり図も展示されており、同じ作品でも版が異なるだけでがらっと印象が変わる様が楽しめます!

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(後期展示)すみだ北斎美術館蔵

後期展示では、雲の形や波頭、波しぶきまではっきりとわかる、状態の良い「神奈川沖浪裏」を展示。「神奈川沖浪裏」は北斎70代のころに発表された作品ですが、北斎が40~50代の頃に描いたとされる波、「賀奈川沖本杢之図」も展示されているので、30年以上かけて極められた北斎の「波」の表現を見比べることができます!

第1章だけでも大満足と思えるほど、内容の濃い展示です。そして、この第1章の内容は、昨年出版された同館初の公式ブック『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』でより詳しく知ることができます。ぜひ『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』でも、画中にちりばめられた北斎の技をじっくり堪能してみてくださいね!

すみだ北斎美術館初の公式ブックで、おうちでも北斎の代表作を楽しめます。

*こちらの『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』のご紹介記事もあわせてご覧ください。すみだ北斎美術館初の公式BOOKで北斎を知りつくす!『THE北斎 冨嶽三十六景ARTBOX』(「北斎今昔」編集部/2020.09.09)

そしてなんと本展では「冨嶽三十六景」のみならず、さらに2つの北斎の名シリーズ「諸国滝廻り」と「諸国名橋奇覧」も前後期で全図展示し、北斎風景画の三大シリーズが勢揃い! 

葛飾北斎「諸国瀧廻り 木曽路ノ奥阿弥陀ヶ瀧」(前期展示)すみだ北斎美術館蔵
葛飾北斎「諸国名橋奇覧 飛越の堺つりはし」(後期展示)すみだ北斎美術館蔵

「滝と橋の絶景」とタイトルが付けられた第2章。第1章を通じて手に入れた、北斎作品を鑑賞するための様々な視点で、「諸国滝廻り」の多彩な水の有り様、そして「諸国名橋奇覧」における北斎の豊かな想像力をお楽しみください。

浮世絵と版木を並べて精密な美を楽しむ

そして本展で一番の見どころが、第3章「花と鳥、虫たちの楽園」で展示されている「桜に鷹」と、その版木を使用した火鉢です!

今回初公開となるこの火鉢の4つの側面には、それぞれ違う作品の版木が使用されています。うち2面は北斎の作品で、「桜に鷹」と「詩歌写真鏡 春道のつらき」の版木。残り2面は、渓斎英泉の「江戸名所之内 両国橋夕涼」と、作品の特定ができていない山水図の版木が使用されています。

今回の展示においては、なんと「桜に鷹」の実際に摺られたオリジナルの浮世絵作品も共に展示してあり、版木と浮世絵を見比べながら鑑賞するという大変贅沢な楽しみ方ができるのも魅力です。(※作品の展示は前期のみ。)

葛飾北斎「桜に鷹」(前期展示)すみだ北斎美術館蔵

「桜に鷹」には、鷹狩の鷹が満開の桜を背景に、架木(ほこぎ)にとまり羽を休める様子が描かれています。本作はおめでたい吉祥物を画題としたシリーズの一作で、新年の飾り物として販売されたと考えられているそうです。

〈葛飾北斎「桜に鷹」ほか四面版木火鉢〉個人蔵、すみだ北斎美術館寄託(通期展示)

そしてこちらが、火鉢に使用された「桜に鷹」の版木です。使用されているのは、作品の輪郭線の部分を摺る「主版」と呼ばれる版。浮世絵には、輪郭線を摺るための「主版」と色を摺り重ねていくための「色板」がありますが、主版には、作品の骨格とも言える力強い線と細かな図柄が彫られ、版木だけ見ても大変細密な美しさを持っています。 今回展示されている火鉢も、版木そのものに、芸術品と言えるような高いデザイン性があることから再利用したのでしょう。

また、版木の材質の良さも、火鉢の材に選ばれた理由の一つだったと考えられます。江戸時代、浮世絵の版木には貴重な山桜材が使用されていました。 この貴重な材を用いた浮世絵の版木は、役目を終えると、表面にかんなをかけ、また新たな作品の版木として繰り返し使用していました。そのため、版木そのものが残っていること自体、大変珍しいと言えるのです。稀少な版木を見られるこの機会を、どうぞお見逃しなく!

全長約7m! 北斎、幻の絵巻「隅田川両岸景色図巻」が5年ぶりに

葛飾北斎「隅田川両岸景色図巻」両国橋から柳橋付近(前期展示)すみだ北斎美術館蔵
葛飾北斎「隅田川両岸景色図巻」新吉原での遊興の様子(後期展示)すみだ北斎美術館蔵

続く第4章では、約7mにも及ぶ北斎の肉筆絵巻「隅田川両岸景色図巻」を展示。約100年間行方不明となっており、2016年のすみだ北斎美術館の開館に際して公開された幻の絵巻が、再び公開されています。画中には、隅田川沿岸の名所が多く描き込まれており、我々にも馴染みある観光スポットの当時の姿を解説付きで楽しめます。

北斎の肉筆作品から浮世絵風景画・花鳥画、ひいては版木までと、あらゆるジャンルの北斎の名作が一挙に公開されている本展。ぜひこの機会に、極上の北斎をたっぷりと堪能してみてはいかがでしょうか。

THE 北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―
会 期:【前期】2021年7月20日(火)〜8月22日(日)
    【後期】2021年8月24日(火)〜9月26日(日)
休館日:毎週月曜日(8月9日、9月20日は開館)、8月10日(火)、9月21日(火)
時 間:9:30~17:30(入館は17:00まで)
会 場:すみだ北斎美術館(東京都墨田区亀沢2-7-2)
観覧料:一般 1,200円/大高生・65歳以上 900円/中学生・障がい者の方 400円/小学生以下 無料
公式サイト:https://hokusai-museum.jp/

 

文・杉本奈緒(「北斎今昔」編集部)