おうちで浮世絵鑑賞!文化デジタルライブラリーで歌舞伎の歴史を見てみよう

おうちで浮世絵鑑賞!文化デジタルライブラリーで歌舞伎の歴史を見てみよう

再整備工事のため、2023年秋に閉場予定の国立劇場(東京・半蔵門)。歌舞伎や文楽などの上演を行なっているだけでなく、伝統芸能の担い手の養成事業や、伝統芸能にまつわる資料の収集・調査も行っています。国立劇場の所蔵する資料の一部は、隣接する伝統芸能情報館で公開されていますが、実はおうちでも国立劇場の資料を閲覧することができるんです。子供から大人まで楽しめる、日本芸術文化振興会が運営するウェブサイト「文化デジタルライブラリー」をご紹介します。

歌舞伎の隆盛を支えた浮世絵

文化デジタルライブラリーでは、日本の伝統芸能の魅力を紹介するコンテンツや、国立劇場各館の主催公演の公演記録情報、錦絵(多色摺の浮世絵版画)・ブロマイドなどの収蔵資料を公開しています。今回は、文化デジタルライブラリーで歌舞伎と浮世絵の関係を学んだあと、収蔵資料の「錦絵」を検索し閲覧してみたいと思います。

まずは文化デジタルライブラリーのサイトにアクセスして、メニューの中から「舞台芸術教材で学ぶ」を選び、一覧から「はじめての歌舞伎」を選びます。こちらはイラストや写真を多用し、歌舞伎についてわかりやすく解説した歌舞伎入門コンテンツです。

「早わかりindex」をクリックすると、歌舞伎初心者の誰もが不思議に思う6つの問いが出てきます。全部気になるところですが、今回は「昔は俳優の顔をどうやって知っていたの?」をクリックします。

昔の人々が、人気俳優の顔を知ることができた方法。その答えは、浮世絵です。今でこそ文化財として美術館や博物館に収められている浮世絵ですが、江戸時代、その多くは商品として市場に流通し、だれもが気軽に買うことができました。

人々の「見たい」「知りたい」「欲しい」といった欲求に応え、人気俳優の姿や話題の舞台を描いてきたのが浮世絵です。旬の情報をいち早く多くの人に届けるために、浮世絵版画の技術は目覚ましい発展を遂げ、歌舞伎ファンの熱狂を後押ししました。「ファンと錦絵」のページでは、歌舞伎と浮世絵(錦絵)とが相互に影響を与えながら発展してきた歴史を、豊富な図版をまじえながら解説しています。

歴代の名優の姿を浮世絵で

では実際に、歌舞伎がどのように描かれてきたのか、国立劇場所蔵の錦絵を見てみましょう。サイトメニューの中から「収蔵資料を見る」を選び、資料の分類の中で「錦絵」を選びます。

「錦絵」のページでは、さまざまな項目で収蔵している錦絵を検索することが可能です。試しに「役者名」で錦絵を検索してみます。たとえば昨年13代目の襲名が行われて話題の「市川團十郎」の名前を調べると、初代から11代目までが検索結果に出てきます。

古くから歌舞伎役者の姿は多くの浮世絵に描かれてきましたが、浮世絵版画の多色摺の技術が完成するのは1765年頃、市川團十郎であれば4代目の時代です。文化デジタルライブラリーで閲覧可能な錦絵も、錦絵の流通量が増えていく7代目團十郎(1800年襲名)以降の作品が充実しています。9代目になると明治時代に入り、写真(ブロマイド)も残されているのですが、依然として錦絵が役者の姿を色鮮やかに伝える主要メディアとして機能していたことが分かります。

錦絵誕生以前に活躍した初代から、歴代の市川團十郎の夢の共演を描いた歌川国貞の「市川團十郎の代々」(NA061040)。明治期に活躍した九代目市川團十郎の錦絵(NA090430)。

錦絵は、各図拡大表示ができ、演目名や上演された年、何の役を誰が演じているか、ということまで詳細な情報を確認できます。(※演目や役者が特定できていない作品もあります。)同じ俳優でも、役柄や描いた絵師によって、ずいぶん印象が異なるので、ぜひ役者ごとにいろんな作品を見比べてみてください。

北斎、広重が歩いた江戸の芝居町

次に「絵師・画工で探す」のページから浮世絵師の名前で検索してみたいと思います。まずは「葛飾北斎」。2023年1月現在、文化デジタルライブラリーに登録されている北斎の作品は4件。芝居町の通りの賑わいを描いた作品2点と怪談を題材にした作品2点を見ることができます。

このように国立劇場が所蔵する錦絵からは、役者の姿だけでなく、歌舞伎文化の周縁をも知ることができます。北斎も人混みをかき分けながら、芝居小屋へ足を運んだのでしょうか。骸骨の「こはだ小平次(小幡小平次)」は、怪談話の登場人物で、無念の死を遂げる歌舞伎役者です。

北斎が描いた人でごった返す芝居町(NA091410)と、広重が描いた月影が美しい夜の芝居町(NA081540)。

続いて「歌川広重」を調べてみましょう。検索結果には3代の広重が出てきますが、「東海道五拾三次」でお馴染みなのは初代です。広重も北斎同様、芝居町の賑わいを描いています。天保の改革で江戸市中の芝居小屋は浅草寺の北東に集められ、ここに生まれた芝居町は猿若町と呼ばれました。

広重は、この猿若町や近くの待乳山聖天の様子を、いろんなアングルから何度も繰り返し描いています。最晩年のシリーズ「名所江戸百景 猿若町よるの景」は、ゴッホの《夜のカフェテラス》に影響を与えたとも言われる名作です。

こんな浮世絵見つけたよ

歌舞伎に詳しくないと、なかなか「題名で探す」検索は難しいかと思いますが、好きな文字で始まる演目をランダムに表示させて錦絵を眺めるのも、予期せぬ出会いがあり面白いです。ここでは、編集部が文化デジタルライブラリーで偶然見つけた面白い浮世絵をご紹介します。

【プライベートものぞきたい】大好きな俳優のことは、舞台上の華やかな姿だけでなく、素顔も知りたいと思うのがファンの心理です。歌川国周が描いた「俳優楽屋の俤(おもかげ)」というシリーズ作品は、まさに舞台に立つ前後の俳優たちの楽屋での姿を描いた作品。国周以外の絵師の作品にも、楽屋の様子を描いた作品が複数あり、「舞台の裏側」も人々の興味対象だったことが分かります。

【これぞ、日本人の「もったいない」精神】浮世絵版画は用紙や版木の大きさがある程度規格化されていました。大画面の作品をつくる場合は、紙を横につないだり縦についだりします。歌川豊国が描いた「芝居大繁昌之図」は、その名の通り大繁盛の芝居小屋の内部を描いた三枚続の作品。実はこの三枚続、役者が描かれている中央の一枚だけ差し替えて別の興行で再販されており、国立劇場ではこの2種類(異版はこちら)を所蔵しているんです。豊国の絵が好評だったので、両側はそのまま使い回しちゃったのでしょうか??

【おうちで歌舞伎! 浮世絵ペーパークラフト】錦絵は鑑賞するだけでなく、切ったり貼ったり組み立てることもありました。おもちゃ絵の一種である「立版古(たてばんこ)」は、まさに江戸時代のペーパークラフト。「立版古 忠臣蔵九段目山科の段」は、忠臣蔵の舞台をミニチュアで再現できる錦絵です。資料のページには、実際に組み立てた状態(レプリカ)の写真も掲載されていました。これはすごいですね!

皆さんもぜひ「文化デジタルライブラリー」のコンテンツを活用して、国立劇場が所蔵する様々な作品・資料から、江戸文化の豊かな広がりを実感してみてください。そして面白い浮世絵を見つけたら、ぜひ「北斎今昔」編集部に教えてくださいね。

文・「北斎今昔」編集部
協力・国立劇場