開館20周年を祝してリニューアルオープンした印刷博物館をレポート!

開館20周年を祝してリニューアルオープンした印刷博物館をレポート!

社会のあらゆる分野でデジタル化が進んでいた1990年代に設立が企画され、文化を支えてきた印刷のアナログ技術や表現を、保存・伝承していくために設立された印刷博物館(東京・文京区)。2000年のオープン以来、印刷をコミュニケーションメディアとして捉え体系化し、歴史的な印刷史料の収集、そして印刷に関連する機器や製品の保管管理など、幅広く活動を続けています。そんな印刷博物館が2020年10月6日に開館20周年を記念してリニューアルオープンしました!

常設展を刷新!時系列で明快に印刷文化を知る

印刷博物館の開館20周年を記念した今回のリニューアル。「印刷の日本史」をメインテーマとした常設展も新しくなりました。

展示室の壁面を利用した印刷の世界史(提供:印刷博物館)

展示室に足を踏み入れると、左の壁面には大きな世界史年表が! 印刷の歴史がなんと高さ4メートル、長さ20メートルにわたってずらりと記された一大年表で、世界史において印刷が社会に与えてきた影響が視覚的に伝わってきます。年表の下部には資料が展示されており、実際に印刷物がどのように進化しているのかも同時に見て取れます。

日本の印刷の歴史は古代から。(提供:印刷博物館)

日本の印刷文化に関する展示は、全体を「古代・中世」、「近世」、「近代」、「現代」の4つの時代区分に分け、16個のテーマに沿って有名な歴史的事象と関連付けながら、世界史年表に対応するように時系列順に展開されています。世界と日本の印刷史を比較しながら展示を見進めていくので、日本における事柄だけではなく自然と横のつながりについても理解を深めていくことができるようになっています!

印刷の日本史の「近代」のエリア。壁面の世界史と対応させながら展示を見ることができる。(撮影:「北斎今昔」編集部)

日本が開国し、明治政府の主導で「近代国家」への道を歩み始めた1860年ごろからの印刷史を展示している近代エリア。世界ではデザイン運動や近代ポスターの誕生などが起こっていることがわかります。日本が近代国家を目指して、必要な新しい技術を外国人から多く学び取っていったこの時代の展示は、世界の印刷史年表とのかかわりも深く、年表と展示台との間を行き来して見比べていくと、どんどん面白味が増すように思いました。

日本にしかない印刷「浮世絵」の印刷史も印刷博物館でマスター!

もちろん「浮世絵」を紹介するコーナーも!(撮影:「北斎今昔」編集部)

日本の印刷文化史をメインとした印刷博物館の常設展には、もちろん日本ならではの多色摺木版である「浮世絵」に関する展示も充実しています! 近世をテーマにした展示の中に位置する「浮世絵」のコーナー。江戸時代に出版社の役割を果たしていた「版元」についての説明や、彼らと北斎などの「絵師」、そして「彫師」や「摺師」といった職人たち、4者の関係性を踏まえて、どのように浮世絵が作られていたのかがわかりやすく示されています。さらに、浮世絵の見方や、そのジャンルまで詳しく解説されているのが嬉しいポイント。

浮世絵版画の制作工程も、映像と展示でわかりやすく紹介。(提供:印刷博物館)

気になる浮世絵の制作方法についても、「神奈川沖浪裏」(複製)の摺順序や、「ビードロを吹く娘」(複製)の彫・摺の映像などで、ビジュアル的に理解することができます。

「印刷×技術」ゾーンで印刷の仕組みを知る

印刷の仕組みを徹底解説!(撮影:「北斎今昔」編集部)

そして今回のリニューアルの大きな見どころが、「印刷の歴史」を知るゾーンからは独立した「印刷×技術」の展示ゾーンです! そもそも「印刷」とは何であるかを、版・印刷されるもの(紙など)・インキ・圧といった、印刷に必要な4つの要素から解説したパネルと道具展示が、それまで時系列に見てきた印刷史に3次元的な厚みを加えます。


ひと口に「印刷」と言っても技法はさまざま。見比べることで版種ごとの特徴もよりわかりやすく。(撮影:「北斎今昔」編集部)

さらに奥へ進むと、より細かな分類で印刷の技法を知ることができます。凸版・凹版・平版・孔版と、印刷方法ごとにブロック分けされた4つの展示台。展示台の表・裏に、印刷史ゾーン側には「写真」、壁側には「手工」と、製版方法で区分して展示されています。

例えば浮世絵は、色を付けたい部分だけ残して板を彫る「凸版」で、手作業によって製版している「手工」なので「凸版・手工」のゾーン。どんな分野でも、頭では理解していてもイメージしづらいのが「技術」ですが、この展示ゾーンを見れば様々な印刷技法が一目瞭然です。


体験を通じて、印刷をより深く理解することのできる印刷工房。(上段=提供:印刷博物館/下段=撮影:「北斎今昔」編集部)

出口付近にあるガラス張りの小さな部屋は、活版印刷の保存伝承を目指して創作活動や各種ワークショップなどを開催している印刷工房。今回のリニューアルに合わせて、工房見学ツアーや活版印刷体験のコンテンツが新しくなったそうです。決まった曜日ごとに事前予約制にて開催されているので、気になる方はぜひ参加してみてくださいね!

もっと知りたい!「印刷文化史」

そして印刷博物館では、今回のリニューアルオープンと同時に、これまで20年間の調査研究成果をもとに新しい学問「印刷文化学」を立ち上げたそう。「印刷文化学」とは、印刷と人々との関係を文化的側面から捉え、社会や人々の営みを検証する学問です。

「印刷文化学」のはじめの一歩! 新刊『日本印刷文化史』

その初めの取り組みとして、古代から現代までの日本で起きた歴史的事件と印刷出版文化の関係を、本編22章と6つのコラムで紐解いた『日本印刷文化史』(講談社)が10月7日に出版されました。加えて、同館所蔵の名品を一覧できる『印刷博物館コレクション』も同時刊行されており、印刷への理解を深めたい方におすすめです!

■ 『日本印刷文化史』凸版印刷株式会社 印刷博物館 編著
[価格]2,000円(税別)
[購入方法]印刷博物館ミュージアムショップ、全国の書店、Amazon(アマゾン)楽天ブックス、ほか
■ 『印刷博物館コレクション』凸版印刷株式会社 印刷博物館 編著
[価格]3,000円(税別)
[購入方法]印刷博物館ミュージアムショップ

そして、10月10日からは、印刷博物館1FのP&Pギャラリーにて「現代日本のパッケージ2020」展も開催中。身近な存在でありながら、普段はなかなか深く知る機会の少ないパッケージの面白さに触れられる展示となっています。ぜひ新しくなった印刷博物館に足を運び、常設展とあわせて楽しんでみてください。(現在、新型コロナウイルス感染予防及び拡散防止ため、「常設展」(B1F/有料)および「P&Pギャラリー」(1F/無料)いずれもオンラインでの事前入館予約が必要となります。)

展覧会情報

現代日本のパッケージ2020
会 期:2020年10月10日~12月6日
休館日:毎週月曜日(11月23日は開館)、11月24日
時 間:10:00~18:00
入場料:無料
会 場:印刷博物館1F P&Pギャラリー(東京都文京区水道1丁目3番3号 トッパン小石川ビル)
印刷博物館 ウェブサイト

※本展および関連イベントにつきましては、新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止のために中止もしくは延期など変更になる可能性があります。
※印刷博物館「地下1階展示室」にご入場の際は入場料(一般:400円、学生:200円、高校生:100円)が必要です。

文・杉本奈緒(「北斎今昔」編集部)