見渡す限り一面北斎! 特別展「北斎づくし」レポート

見渡す限り一面北斎! 特別展「北斎づくし」レポート

東京・六本木にある東京ミッドタウン・ホールでは、2021年7月22日より、北斎生誕260周年記念企画 特別展「北斎づくし」が開催されています。『北斎漫画』、「冨嶽三十六景」、『富嶽百景』の全頁、全図が一堂に会することで話題の本展。一歩足を踏み入れると、そこはまるで北斎のテーマパーク。空間全体で北斎を堪能できる同展をご紹介します。

一面北斎漫画だらけ!  唯一無二の空間で堪能する『北斎漫画』

入り口から続くレッドカーペットを進み、まず現れるのは、床から天井、展示ケースまでびっしりと『北斎漫画』の図柄で埋め尽くされた異空間。『北斎漫画』の章がはじまります。

日本を代表する建築家・田根 剛氏と、アートディレクター・祖父江 慎氏が会場デザインを担当。(撮影:渡邉葵)

『北斎漫画』は、北斎が描いた全15編の絵手本(絵の描き方の手本となる絵本)。「漫画」は、現在の意味とは異なり「漫然と描かれた絵」を意味します。北斎が本作で描いているのは、江戸の風俗や職人の作業の様子をはじめ、動植物、風景、建築、人物、故事から妖怪に至るまで、その数なんと約3,600図。これまでもその一部が展示されることはありましたが、全15編、全頁を一度に鑑賞できる空間は前代未聞。ついつい時が経つのを忘れて見入ってしまいます。

『北斎漫画』各巻の書袋。(撮影:渡邉葵)

思わずくすっと笑ってしまうようなコミカルな図柄も数多く収録されている『北斎漫画』。しかしどの図も、肉体の動きや対象物の細部までを精巧に生き生きととらえており、北斎の鋭い観察眼や表現力が光ります。

全巻の書袋(しょたい)を皮切りに、各巻ごとにケースを分けて展示しているので、描かれた時系列に沿って楽しむも良し、お気に入りの巻を見つけてじっくりと堪能するも良し。友人同士で来られていた方も、各々“推し”の図を見つけて楽しんでいるようでした。

富士の絵師、北斎が描く多彩な富士の姿

第一室を後にすると、賑やかでお祭りのような先ほどの空間とは打って変わって、続く第二室では、照明を落としたシックな空間に、代表作「冨嶽三十六景」全46図がずらりと並びます。

第二室の入り口から見える、ずらりと並んだ「冨嶽三十六景」は圧巻!(撮影:渡邉葵)

「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」が収録された本シリーズは、言わずと知れた北斎の代表作。各地から望む富士の様々な表情を描いた、大判錦絵の風景画のシリーズです。当初は名の通り全36図で刊行されましたが、評判となったことでその後10図が追加され、全46図から成っています。

葛飾北斎 「冨嶽三十六景 凱風快晴」 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵(チコチンコレクション)

さらに、本シリーズの制作直後から刊行され、同じく富士を主題に描いた『富嶽百景』も、今回全図が展示されています。色鮮やかな錦絵で制作された「冨嶽三十六景」に対し、『富嶽百景』は墨色を基調とした版本として刊行されました。

『富嶽百景』展示風景。(撮影:渡邉葵)

江戸時代には信仰の対象でもあった富士。古来から伝わる、富士にまつわる神話や伝説、歴史も踏まえ、初編・二編・三編の3冊に多彩な富士の姿が描かれています。

同じ北斎によって描かれた富士にもかかわらず、全く異なる魅力を持つこの両者。一挙展示のこの機会に、北斎がなぜ富士に魅せられ、描き続けたのか、想像しながら鑑賞するのも楽しみ方のひとつかもしれません。

物語に華を添えた読本の挿絵&最新技術で動く!北斎漫画

そして本展の見どころは、これらの一挙展示にとどまりません。

作・曲亭馬琴/画・葛飾北斎『椿説弓張月』展示風景。(撮影:渡邉葵)

まるで少年マンガの世界に入り込んだような空間には、曲亭馬琴とタッグを組み制作した読本『椿説弓張月』や『新編水滸画伝』の挿絵が所狭しと並びます。北斎は40代の頃、こうした読本の挿絵を多く手がけ、その画力に磨きをかけたと言われています。北斎らしいダイナミックな構図と、緻密な描写によってビジュアル化された壮大な馬琴の読本の世界は、今見てもワクワクするものばかりです。

積み重なった読本のディスプレイは、物語の中に入り込んだような気分。(撮影:渡邉葵)
そして、最新技術を用いた“超没入シアター”も大きな見どころのひとつ。
いきいきとした北斎ワールドが、アニメーションで動く”超没入シアター”。(撮影:渡邉葵)

『北斎漫画』に描かれた人々が生き生きと動き出したり、「冨嶽三十六景」の名場面が目の前で繰り広げられたりと、展示作品から飛び出した図像の数々が、空間を縦横無尽に往来。たとえば「冨嶽三十六景 駿州江尻」の紙が舞い上がる場面は、実際に紙が大画面の端から端へ飛んでいくように演出されています。 江戸時代の浮世絵が、現代の技術で動く。これを実現する現代の最新技術にも感動しましたが、北斎の緻密な描写や、作品の臨場感があったからこそ、こうした新たな試みのアイディアが生まれたのかもしれません。

浮世絵版画の摺の工程を紹介する映像も上映。(撮影:渡邉葵)

また、展覧会の中盤では「神奈川沖浪裏」の摺の工程の映像も。「北斎今昔」の運営母体である「アダチ版画研究所」の職人が出演しています。制作の視点からも、北斎作品を楽しんでみてくださいね。

隅から隅まで、まさに北斎づくしの本展。膨大な作品数と見ごたえたっぷりの空間に、見終えたあとには達成感と、心地いい疲労感を覚えます。東京ミッドタウン内では、本展とのスペシャルコラボメニューも展開しています。

北斎の代表作「神奈川沖浪裏」からインスピレーションを受けた、宮川町水簾(東京ミッドタウン ガレリア内ガーデンテラス 3F)の「北斎鱧すし」。

展覧会を満喫したあとは、贅沢なコラボメニューを味わって、身も心も“北斎づくし”な一日を送ってみてはいかがでしょうか。

展覧会情報

生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」
会 期:2021年7月22日(木祝)〜9月17日(金)
休館日:8月10日(火)、8月24日(火)、9月7日(火)
時 間:11:00~19:00(入場は閉場30分前まで)
会 場:東京ミッドタウン・ホール [東京ミッドタウンB1](東京都港区赤坂9丁目7-2)
観覧料:一般 1,800円/大学生・専門学校生 1,200円/小中高生 900円
    *日時指定制
    小学生未満、または障がい者手帳をお持ちの方とその介助者1名様 無料。
公式サイト:https://hokusai2021.jp/

文・渡邉葵(「北斎今昔」編集部)