金魚はいつの風物詩? お節句との関係は?【PR】

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3月3日はひな祭り。そして同時に「金魚の日」でもあるのをご存知でしょうか? 日本鑑賞魚振興会が制定した記念日で、江戸時代、ひな祭りのときに金魚を一緒に飾る習慣があったことに由来しているそうなんです。「金魚」は夏の季語ですし、春のお節句に飾るのはちょっと意外。江戸時代の習慣であれば、浮世絵から何か分かるのでは? ひな祭りと金魚の関係について、「北斎今昔」編集部が調査してみました!

浮世絵にひな祭りと金魚の関係は描かれているのか

浮世絵には古くから桃の節句を祝う様子が描かれてきました。雛飾りの準備をしている女性や、雛段の前で遊ぶ親子の姿が、多くの絵師たちによって描かれています。また、庶民が雛人形の代わりとして飾ったのではないかと思われる浮世絵も多数出版されています。ただ、ひな祭りに金魚が描かれている浮世絵がなかなか見当たりません。あまり一般的な習慣ではななかったのでしょうか……。

歌川国貞「内裏びな」 アダチ版復刻浮世絵

金魚を描いた浮世絵ですぐ思い浮かぶのが、鳥高斎栄昌の美人画「若那屋内白露」。白露という遊女は金魚が好きだったのでしょうか。大きな琉金を手に嬉しそうです。

鳥高斎栄昌「若那屋内白露」 アダチ版復刻浮世絵

この作品もひな祭りと直接の関係はなさそうですが、季節はいつでしょう。白露の格好は真夏の装いではありません。優しい色の組合せや桜の模様は、どちらかと言えば春コーデ。少なくともこの作品では、金魚が夏の季節感と結びついていないことが分かります。

金魚が春の節句の情景と結びついている浮世絵は他にないでしょうか。そうして国立国会図書館のデジタルコレクションを眺めていて見つけた浮世絵がこちら、歌川国貞「あつまけんしみたて五節句」です。

歌川国貞「あつまけんじみたて五節句」安政2(1855)年 国立国会図書館デジタルコレクション

薬玉が下がっていて、手動式扇風機も描かれていて、タイトルは「さつき」とあります。ん? ちょっと待ってください、確かに春のお節句だけれど、桃の節句じゃなくて端午の節句でした! 国貞が描いているのは、どう見ても初夏の風情です。うーん、やはり金魚は夏なのでは……。ここは一つ、金魚が主役のあの浮世絵にご登場いただきましょう。

なぜ金魚は、とんびに油揚げをさらわれたのか

コミカルな擬人化金魚が大人気の浮世絵、歌川国芳の「金魚づくし」シリーズ。現在9図が確認されている本シリーズに、桃の節句との関わりを確認できる作品はあるでしょうか。

アダチ版画研究所が復刻した「金魚づくし」シリーズ9図。

9図のうちの4図は、夏の題材と考えて良さそうです。シャボン玉売り、火消し、筏師といった特定の職種を扱った3図と酒宴を描いた1図については、そこまで具体的な季節が想定されていないように思います。さて問題は「とんびに油揚げをさらわれる」ということわざをそのまま絵画化してしまった「さらいとんび」という作品です。もしかすると、この作品にひな祭りとの関連のヒントがあるのでは?

歌川国芳「金魚づくし さらいとんび」アダチ版復刻浮世絵

改めて国芳の「金魚づくし さらいとんび」を見てみましょう。とんび金魚(?)が、油揚げをかっさらって、他の金魚たちが大騒ぎしています。とんびに食べ物を盗まれる場面を描いている作品は、国芳以外の絵師も描いており、当時の人たちには日常的なプチ災難であり、笑いの対象であったことがうかがえます。

歌川広景「江戸名所道化尽 廿七 芝飯倉通り」 国立国会図書館デジタルコレクション

ここで注目したいのが、中央にいる、小さな金魚をおぶった金魚です。とんびと子守をする女の子(?)。実はこれ「子守」という清元(三味線を伴奏に物語を節で語る浄瑠璃の一つ)の内容と一致するんです。舞踊では「子守」の小道具に、とんびの作り物や味噌漉しを用います。そして、この「子守」は五節句をテーマにした「五変化舞踊」を構成する一曲。国芳は、単にことわざを戯画として描くに止まらず、この清元の内容を盛り込んだのではないでしょうか。粋ですね!

歌川国芳「金魚づくし さらいとんび」(部分図)アダチ版復刻浮世絵

そして、この「子守」の本名題は「七夕星祭祀」と言います。ん? 待ってください、お節句はお節句でも、桃の節句でも端午の節句でもなくて、七夕!? ……結局、国芳の「金魚づくし」でも、金魚とひな祭りの関係は見えてきません……。画面に描かれた謎のお猿さんも、庚申様だと考えれば、5年に一度(=60ヶ月に一度)巡ってくる「庚申」の月は7月なので、七夕の季節と一致します。やはり「金魚づくし」シリーズも、メインの季節は夏のようです。

お節句と結びついていった金魚

ということで、今回、ひな祭りと金魚の関係を解き明かす浮世絵は見つかりませんでした……。(見つけた方、ぜひ教えてください!) ただ、国貞が端午の節句の風景の中に金魚鉢を描き、国芳が七夕に関連する舞踊の情景を金魚の姿で描いたように、金魚とお節句とは何らかの関係があるのではないでしょうか。江戸時代後期、金魚の養殖が盛んになり、人々にとって金魚は身近なペットになっていきました。

江戸時代の金魚の飼育書。安達喜之『金魚養玩草』 寛延元(1748)年 国立国会図書館デジタルコレクション

鯉や金魚が、多産や子宝を象徴する縁起物とされていることから、子供の成長を願うお節句の風習の中に自然と取り込まれていった可能性は高いかも知れません。金魚の繁殖期は春〜夏。桃の節句の頃、メスの金魚はぽっちゃりし、オスはヒレに発情期を表す追い星が表れ始め、産卵は七夕を過ぎる頃まで続きます。「金魚」という隠語は女性に関連することに用いられるケースが多々あるので、端午の節句が鯉ならば、桃の節句には金魚、といったようにお節句に結びついていったと考えるのは、ややうがち過ぎでしょうか。

おおらかな江戸の歳時記の中で、春には生命の息吹を感じさせ、夏には涼を誘うものとして、人々に親しまれた金魚。金魚と言えば夏、と思い込んでいましたが、本日3月3日の金魚の日から、インテリアや小物に金魚モチーフを取り入れて、春を迎える準備をしてみるのも乙かも知れませんよね。

春夏楽しめる金魚モチーフ

復刻版浮世絵「金魚づくし」シリーズ
[価 格]各図 絵のみ 8,800円(税込)/額付 14,300円
     セット(9図+額1点) 71,500円(税込)
[購入方法]アダチ版画研究所 オンラインストア、または ショールーム にて

アクリルキーホルダー・国芳「金魚づくし」
[価 格]3種 [通常版] 各 550円/[限定版] 各 990円(税込)
[購入方法]アダチ版画研究所 オンラインストア にて

文・「北斎今昔」編集部