2026年は午年! 馬を描いた浮世絵
2026年の干支は午。現代よりもずっと馬が身近な存在だった江戸時代、浮世絵の中にも多くの馬の姿が描かれています。この記事では、アダチ版画研究所が制作した復刻版で、馬が描かれている浮世絵をご紹介します。
「東海道五拾三次」の馬たち
広重の代表作「東海道五拾三次」の風景の中には、多くの馬の姿を見ることができます。宿場や街道沿いの風景を描いたシリーズですので、人や物を運ぶ馬が、頻繁に登場します。
その中でまずは、敢えて、運搬に従事していない馬の姿を描いた作品をご紹介します。一つ目は知立の馬市の様子を描いた「池鯉鮒 首夏馬市」。草むらにたくさんの馬が描かれています。知立の馬市は、現在愛知県の天然記念物に指定されている「知立の松並木」の周辺で開催されていたそうです。
広重は副題を「首夏(=朱夏)」としていて、夏草の緑と、空の朱色の一文字ぼかしとで、光溢れる夏の光景を描きだしています。シンプルな数本の線で、馬の形態を的確にとらえていて、その筆致は実に軽やか。草原を渡る風のザザァーっという音まで聞こえてきそうです。
続いてもう一図は、社寺に馬を奉納する尾張や西三河の民俗行事を描いた「宮 熱田神事」。「馬の塔」や「おまんと」と呼ばれるこの行事は、熱田神宮の神事が起源と言われています。華やかに飾り立てた馬を奉納する「本馬」と、馬に綱を付けて若者たちが走らせる「俄馬(にわかうま)」があり、広重が描いたのは後者です。
神社の境内を馬と人々が駆け抜ける、エネルギッシュな作品です。揃いの半被を着た人々が、振りほどかれまいと必死に馬の綱を握る様子が伝わってきますね。墨色の画面の中に、鳥居の丹色、半被の赤や紫、藍色が鮮やかに映え、広重の色彩センスが光ります。
スラッとした馬、筋肉質な馬
浮世絵に描かれている馬は、小柄でずんぐりした馬が多い印象ですが、中にはスラッとした馬もいます。広重の「冨士三十六景 下総小金原」に描かれている馬は、かなり脚長。なんだか毛艶も良さそうです。
実はこの馬たち、幕府直轄の「小金牧」の馬。小金牧は軍馬の安定確保を目指して設けられ、ここに馬を放し飼いにして、年に一度、捕獲した馬の中から幕府に献上する馬を選別していたそうです。馬たちが緑豊かな環境で健やかに暮らしていることが、広重の浮世絵から伝わってきます。のびのびと育った良家のお馬様は、どこか微笑んでいるようにも見えます。
北斎の「冨嶽三十六景」の中にも、筋肉質な馬が登場します。「隅田川関屋の里」では、蛇行する堤の上を三頭の馬が走っていきます。風になびくたてがみ、はためく着物の裾に、その速さが表現されています。
馬上の人をよく見ると、刀を二本差していて武士であることが分かります。火急の用があり、早馬を飛ばしているのです。馬は、小柄ではあるものの、農耕馬などとは異なる引き締まった体をしています。侍たちは手綱をグッと握り締め、姿勢を低くしています。すやり霞の平行線が、さらにそのスピード感を演出しているようにも見えます。
これが浮世絵? 幻想的な馬たち
最後にご紹介するのは、北尾重政の作品です。紅梅の木の下に小川が流れ、3頭の馬がいます。白、黒、そして白に灰色の斑模様の馬です。「これも浮世絵?」と思ってしまう、まるでヨーロッパの絵本の中から抜け出てきたかのようなファンシーテイスト。
浮世絵っぽくないと感じるのは、3頭の馬に墨線の輪郭線が無いことに起因していると思われます。なぜこんな風に表現したのでしょうか。実はこの作品、実際に手に取って見てみると分かるのですが、馬のたてがみまでちゃんと描写されているんです。下の画像で、線刻のようになっているのがお分かりになりますでしょうか?
この作品では、木版ならではの「空摺(からずり)」という技法で、版木に墨や絵具をつけずに摺り、和紙の表面に凹凸を生んで、線を表現しています。(今でいうデボス加工にあたります。)この空摺の技法によって、馬の白と黒のコントラストもより活きてきます。なんとも心憎い演出。
ちなみに一番右の馬の水玉模様は、「銭形模様」「栄養斑点」などと呼ばれていて、馬が健康な証なのだそうです。(神社の扁額や絵馬に描かれた馬は、高確率で水玉模様です。)春の訪れを告げる梅の花とともに、なんとも縁起が良く、新しい年を寿ぐ浮世絵のようにも見えます。午年の年の初めにぴったりの浮世絵です。
ここでご紹介した作品は、本当にごく一部。他にも多くの浮世絵に馬が描かれていますので、ぜひお気に入りの馬を見つけてみてください。
文・「北斎今昔」編集部
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