浮世絵の「かわいい・怖い・ちょっと変」が勢揃い! 太田記念美術館「アニマル&モンスター」展レポート

浮世絵の「かわいい・怖い・ちょっと変」が勢揃い! 太田記念美術館「アニマル&モンスター」展レポート

東京・原宿の太田記念美術館では「アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変」展が開催中です。展覧会名の通り、動物および想像上の生き物を描いた浮世絵を、前後期で140点展示します。会場には、現代の私たちでも親しみやすく、思わず感情移入してしまうアニマル&モンスターが勢揃い。浮世絵の画題の幅広さと表現の自由さを実感できる展覧会です。

プレス向けの内覧会で作品解説をする日野原学芸員(本展担当)。トラやゾウ、エイを描いた浮世絵が展示されている。

共感か、違和感か 江戸時代とのカルチャーギャップが面白い!

展覧会は5章構成で、愛らしい動物、恐ろしい妖怪や怪物、そしてちょっと変な生き物たちをグループに分けて紹介しています。1章の「アニマルいろいろ」は動物の図鑑を見るように、さまざまな絵師が描いた動物を見ていきます。

葛飾北斎「狆」天保4年(1833)

展示室の冒頭を飾るのは、あの葛飾北斎が描いた犬、「狆(ちん)」です。首に赤い布を巻かれ、きれいな鞠をおもちゃに与えられています。まさに江戸の愛玩動物の姿そのもので、ふさふさの長毛は「かわいい」の塊です。が、この犬、目が合うとどこか「怖い」気もしますし、小型犬にしては猛獣のような足をしていて「ちょっと変」です。ある意味で、本展のエッセンスすべてを併せ持ったような作品が出迎えてくれました。

じっと見ていると、不安になる青い目。江戸時代の人々はこれを「かわいい」と思ったのだろうか。

と、クセ強めの作品でスタートした1章ですが、他の絵師たちが描いた動物たちも、見る者にさまざまな感情をわき起こさせます。竹林の虎はニヤッと笑っているように見え、浜に打ち上げられたイッカクは全てを諦めてしまったように見えてきます。動物学的な正確さはさておき、その動物に対する絵師の興味や関心が絵の中に表出していて、江戸時代(明治時代)の人々への共感、あるいは違和感が面白くもあります。

どこか悲しそうに見える、陸の上のイッカク。
林萬次郎「教育訓画 動物第廿六 いつかく」明治19年(1886)

1章では他に、九官鳥やサンショウウオ、といった動物たちも登場し、当時の人々の生態への興味がうかがえます。

絵になる生き物、それは猫

2章は「かわいい猫・怖い猫」。この章に登場する多くの猫は、作品の中の名脇役として、美人の笑顔を引き出したり、ちょっとしたハプニングを巻き起こしたり、画面の中に物語を生み出します。

微笑ましい家庭での一場面に猫。鏡に映った自分にシャーッ!
喜多川歌麿「針仕事」寛政6〜7年(1794〜95)頃

現代でもペットとして人気の高い猫は、江戸時代も人々に愛されていました。室内で猫とくつろぐ女性や、猫の形の雪だるまを作る女性たちの作品が並びます。描いている絵師自身も、猫が好きだったのだろうな、と思わせる作品が多いです。

猫好きで知られた遊女・薄雲の姿。着物もかんざしも猫デザイン。
月岡芳年「古今比売鑑 薄雲」明治8〜9年(1875〜76)頃

自由に描ける! モンスターが大発生

3章は「怖いモンスター」。歴史や伝説の物語の中に登場する妖怪・物怪の類が紹介されます。いずれも架空の生き物なので、浮世絵師たちはイマジネーションを全開にしてモンスターを描いています。物語の主役は、本来、妖怪を退治する英雄たちのはずですが、浮世絵の中のモンスターには、主役級の存在感を放つものすらいます。

三枚続きの大画面。センターに描かれるのはヒーローではなく、退治される側の鬼。
歌川芳艶「大江山酒呑退治」安政5年(1858)

描いている絵師たちも、だんだんモンスターを描く方に興が乗ってきたのではなかろうか、と思ってしまうほどに趣向をこらしたモンスターたち。古典画題として、ある程度ビジュアルが固定化していたヒーローたちよりも、モンスターの方が個々の絵師が自由に描けたのかも知れません。現代ならば、こうしたモンスターを描く才能は、映画やゲームの業界で発揮されたことでしょう。

頭は猿、胴は虎、尾は蛇の形という伝説上のいきもの「鵺(ぬえ)」。ブロンドのたてがみ(?)は、絵師の創作か。
歌川国芳「木曽街道六十九次之内 京都 鵺 大尾」嘉永5年(1852)

ウェブ上で話題をさらった、人間味のある猫や鳥たち

4章の「人まねアニマル」では、浮世絵における擬人化の作例を多数紹介します。着物を着て二足歩行する猫、鼠、兎たち。動物たちの姿に変換されると、日常の何気ないシーンも愛おしくなってくるから不思議です。画面を複数に分割してさまざまなパターンを展開する趣向のものも多く、イラスト集を眺めているような気軽さもあり、親しみが増します。


わいわいにぎやかな雰囲気の作品が多い4章。
歌川国利「ねこのうなぎや」明治16年(1883)

特にこの章に並ぶ作品は、ウェブ上で見たことがある、という方が多いかも知れません。太田記念美術館が、21万人のフォロワーを誇るX(旧・Twitter)アカウントnote記事を通じて紹介してきた作品が散見されます。

血の気の多い鳥たちが、遊郭で大乱闘。中に、ネットニュースにもなったあの鳥が。
歌川芳藤「廓通色々青楼全盛」慶応3年(1867)

たとえば「つば九郎のご先祖さま」と言われ、ネットニュースでも紹介されたツバメの姿も。噂の上腕二頭筋も健在です。

腕っぷしの強そうな「つば九郎のご先祖さま」。アルファベット柄の着物もおしゃれ。

ちなみに、擬人化動物はグッズ化にも最適。内覧会で披露された太田記念美術館の新たなミュージアムグッズは、今治のタオルメーカー・コンテックスがつくった、ふわふわ生地の「猫の蕎麦屋さん手ぬぐい」。人気のため一時品薄になったものの、先日メーカーの尽力により無事追加納品されたそう。(デザインに使用された作品は後期で展示予定です。)

動物モチーフのグッズは大人気。お土産にも。

どこに需要があったのか、ちょっと変なキャラクターたち

そしてにぎやかな本展は、5章「「ちょっと変」なキャラクター」で幕を閉じます。すでに4章までに「ちょっと変」なキャラクターがいっぱい出てきた気がしないでもないのですが、ここからは、浮世絵師たちが創作した生き物(?)が登場します。

たとえば「虎子石」の伝説をもとに、石に虎の足を生やして新たなクリーチャーを誕生させたり。

虎の足と尾が生えた石「虎子石」。絵師の完全な創作キャラクターである。
歌川芳員「東海道五十三次内 大磯 をだハらへ四り」嘉永6年(1853)

当時の歌舞伎役者の顔で人面魚を量産してしまったり。

金魚の顔が役者の似顔になっている。果たして、ファンはこれを喜んで買ったのだろうか。
落合芳幾「見立似たかきん魚」文久3年(1863)

確かに、もう「キャラクター」と括る他にどうしようもない、ツッコミどころの多い存在が次々と紹介されます。絵師の発想もすごいのですが、こうして浮世絵版画になっているということは、商品としての需要が見込まれたということ。一体どんな人たちがこれを買ったのか、考えるのも楽しいでしょう。

枕元に置いて寝ると悪夢を見ずにすむという瑞獣「白澤(はくたく)」の絵。
梅素亭玄魚「白澤之図」安政5年(1858)

「アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変」展は、思わず誰かに教えたくなる、他の人はどう思うのか知りたくなる、そんな作品がたくさん出品されています。夏休みに家族や友達と一緒に行って、感覚の一致やズレを楽しんでみてはいかがでしょうか。
※記事内の写真はすべて前期(6月23日~7月20日)の展示。後期(7月25日〜8月23日)は全点展示替えとなります。

展覧会情報

アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変
会 期:2026年6月23日(火)〜8月23日(日)
時 間:10:30~17:30(入館は閉館30分前まで)
休館日:6月29日、7月6日、7月13日、7月21日〜24日、7月27日、8月3日、8月10日、8月17日
会 場:太田記念美術館(東京都渋谷区神宮前1-10-10)
観覧料:一般 1,200円/高校生・大学生 800円/中学生以下 無料
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://www.ukiyoe-ota-muse.jp/
 

文/撮影・松崎未來(ライター)
協力・太田記念美術館