世界で評価され、愛され続ける浮世絵師・北斎

世界で評価され、愛され続ける浮世絵師・北斎

江戸時代、庶民の間で大流行した浮世絵は、幕末以降、特にパリを中心としたヨーロッパで、日本を代表する美術品の一つとして評価されるようになりました。その中でも、とりわけ評価が高い北斎。現代にまで続く、世界的評価についてご紹介します。

包み紙から美術品へ、江戸から世界へ

江戸時代、浮世絵が輸出陶器の包み紙として海を渡ったことで、西洋の多くの美術家たちのあいだに広まったというエピソードは有名ですね。もちろん、この一つの出来事だけでなく、日本が初めて参加したパリ万国博覧会(1867年)で浮世絵が紹介されたことなども、その後の浮世絵ブーム、さらにはジャポニスムといった動きにつながっていきます。

そして、熱狂的なコレクターも増え、日本では誰もが気軽に買って楽しんでいた浮世絵が、次第に世界で美術品として評価されるようになりました。

現在では、ロンドンの大英博物館やパリのギメ東洋美術館、アメリカのボストン美術館やメトロポリタン美術館など、世界中の美術館・博物館に、浮世絵の名品が多く所蔵されています。

これらの所蔵品は、19世紀後半以降、外国のコレクターによって蒐集されたものがほとんどです。浮世絵は、海外の美術館で日本を代表する文化として頻繁に紹介され、高く評価されています。

「19世紀に偉大な業績をあげた世界の人物100人」に選ばれる!

この日本が世界に誇る文化の一つ「浮世絵」。中でも、その多彩な才能を発揮し数多くの名作を残した葛飾北斎は、日本以上に海外での評価が高い浮世絵師です。1998年に米国「ライフ」誌が企画した特集「この1000年の間に偉大な業績をあげた世界の人物100人」においては、日本人で唯一、そして画家としても北斎だけが選ばれました。

米LIFE誌のミレニアム特集で、日本人で唯一「偉大な業績をあげた人物」に選ばれた北斎。(撮影:「北斎今昔」編集部)

ロンドン、パリ、そして日本でも、北斎展は大人気!

19世紀後半から海外で評価されてきた北斎ですが、その人気は今なお健在。日本はもちろんですが、ロンドン、パリ、ベルリンといったヨーロッパの大都市にて、北斎の大回顧展が開催され、どの会場にも多くの人が来場しています。ここ数年で開かれたものだけでも、この通り。

2005年【日・東京】東京国立博物館「北斎展」
2008年【英・ロンドン】大英博物館「企画展示:Japan from prehistory to present」
     *同館で3点目となる「神奈川沖浪裏」収蔵にあたり開催
2011年【独・ベルリン】マルティン・グロピウス・バウ「北斎展」
2014年【仏・パリ】グラン・パレ・ナショナル・ギャラリー「北斎展」
2017年【英・ロンドン】大英博物館 「北斎 –大波のかなたに」
2017年【日・大阪】あべのハルカス美術館「北斎 –富士を超えて–」
2018年【日・東京】森アーツセンターギャラリー「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」

特に、2014年のパリのグラン・パレ・ナショナル・ギャラリーで開催された「北斎展」における現地の人々の熱狂ぶりは、海外での北斎人気を象徴するものでした。連日入場制限が行われ、美術館の外に2時間待ちの長蛇の列ができていたそうです。会期中の来場者は、約35万人といわれています。

パリのグラン・パレで開催された「北斎展」の様子。(撮影:「北斎今昔」編集部)

19世紀後半のジャポニスムブームの名残でしょうか、パリでは、今でも浮世絵を所持しているご家庭も多いそうで、日常的に浮世絵、そして北斎に触れているようです。今なお世界中で愛されていることがわかりますね。

ニッポンの象徴=北斎!? 新札や新旅券にも採用

世界で評価され、愛されている北斎ですが、日本でもその人気は変わりません。2019年に発表された新・千円札のデザイン(2024年度〜)には、北斎の代表作「神奈川沖浪裏」が採用されました。千円札という一番馴染みのあるお札に、庶民の娯楽であった浮世絵の図柄はピッタリと言えますね。

そして、2020年2月から、パスポートの査証ページのデザインにも北斎の「富嶽三十六景」が採用されています。10年用のパスポートには、24作品。5年用のパスポートの場合、16作品が使用されています。

来日外国人の方々に日本文化を紹介する一環ともとらえられますが、お札とパスポートといえば、主に日本人が携行するもの。今まで以上に、私たち日本人が北斎を身近に感じることができ、浮世絵が世界に誇る文化であることを実感する機会が増えそうですね。

文・「北斎今昔」編集部