コレクター心をくすぐる世界の名画切手に北斎・広重の桜の浮世絵が登場!

コレクター心をくすぐる世界の名画切手に北斎・広重の桜の浮世絵が登場!

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世界の芸術をテーマにした特殊切手「切手趣味への招待シリーズ」に、浮世絵が登場! 北斎・広重が描いた桜の風景4点が、洗練されたデザインの切手シートになりました。古典絵画へのリスペクトと、現代の印刷技術の粋が詰まった、珠玉の特殊切手をご紹介します。

令和時代の「切手趣味」

「北斎今昔」の読者の方の中には、「切手が浮世絵の世界を知るきっかけだった」という方も多いのではないでしょうか。広重の「月に雁」などは、その代表格と言えます。線と色面が明快な浮世絵版画は、切手の印刷とも相性が良く、これまでさまざまな浮世絵作品が切手の図柄に選ばれてきました。そして、その小さなアートに魅せられ、切手収集を趣味とした方もいらっしゃったと思います。

郵便創業150年の記念の年に発行された切手シートのデザインは、浮世絵の名作2点が並ぶ。
郵便創業150年切手帳(通常版)/2021年8月25日発行(出典:日本郵便株式会社)

通信手段のデジタル化、印刷物の多様化により、昭和期に比べると、切手収集を趣味とする方は減ってしまった印象です。しかし、手紙を書いて郵送することが、ひと手間かけた特別な連絡方法となった今、切手には新しい価値も生まれているように思います。昨今の子どもたちのシールブームを踏まえても、令和時代の「切手趣味」は、新たなフェーズに向かっているのかもしれません。

「切手趣味への招待」シリーズは、「郵便切手が持つ美しさや芸術性を新たな観点から感じ、興味・関心を持つ機会としていただくことを目的とした特殊切手」(※日本郵便株式会社リリースより)として発売開始されました。はじめはフランスの街や城を扱うデザインでしたが、2025年から世界各国の芸術をテーマにシリーズ化。2026年3月11日発行の第3集は、日本の「浮世絵」を扱っています。その発行趣旨の通り、「使う切手」というより、シート全体を「愛でる切手」です。第3集は、デザイナーの島田真帆さん(TOPPAN株式会社アートディレクター)がデザインしました。(デザイン監修は第1集から日本郵便株式会社の切手デザイナー・丸山智さんが担当。)

切手趣味への招待シリーズ 第3集/2026年3月11日発行(出典:日本郵便株式会社)

切手のデザインに選ばれたのは桜の浮世絵

第3集では、桜をテーマに、浮世絵風景画の双璧である北斎・広重の描いた春の風景が2点ずつ選ばれています。4点は、誰もが知る名作だけでなく、知る人ぞ知る作品もあります。

また今回の切手のデザイン制作には、現代の職人たちが復刻した浮世絵版画が使用されました。江戸時代当時の浮世絵の再現に努める復刻版の鮮やかな色彩が、切手のデザインに、明るさと統一感を持たせています。先に触れた作品の選定とともに、シート一枚の中の調和が重視されたデザインのように見えます。実際に使用されたアダチ版画研究所制作の復刻版で、北斎・広重の4点の作品を見ていきましょう。

葛飾北斎「桜花に富士図」

葛飾北斎「桜花に富士図」アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

「画狂人」と名乗っていた40代の頃の北斎が描いた、春爛漫の富士の姿です。一般流通の浮世絵とは異なり、教養人たちの私家版として制作されたもので、上品な色遣いに「空摺」などの技巧を凝らしているのが特徴です。現存作例が少なく、知る人ぞ知る名品です。 「切手趣味への招待シリーズ 第3集」では、シートの上半分に大きくこの作品を配置しています。

歌川広重「江戸近郊八景之内 小金井橋夕照」

歌川広重「江戸近郊八景之内 小金井橋夕照」アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

現在の東京都小金井市、玉川上水に架かる小金井橋と、桜の並木を描いた作品です。小金井は、静かな郊外の桜の名所として、文人たちに愛されました。「ボカシ(グラデーション)」の技法によって、春の夕暮れの空のやわらかな色合いを見事に描き出しています。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」

葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

品川の御殿山は、目の前に遠浅の海を臨む桜の名所でした。北斎は細かな人物描写で、花見の賑わいを丁寧に描いています。開放感溢れる空と海の藍色の中に、淡い桜色が映え、心浮き立つ「冨嶽三十六景」の中の人気作です。

歌川広重「京都名所之内 あらし山満花」

歌川広重「京都名所之内 あらし山満花」アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

京都嵐山の春の風景を、桂川を画面中央に、俯瞰の視点から描いた広重の意欲作です。ヒロシゲブルーの川面とピンクの桜の対比が鮮やか。船上のひと筋の煙、川面に散る花びらといった細かい演出で、春の陽光や水上の風までを感じさせます。

印刷にも並々ならぬこだわり

うっとり眺めてしまう「切手趣味への招待シリーズ」は、デザインだけでなく、印刷の技術にも並々ならぬこだわりが見えます。たとえば「第3集」の版式刷色は「オフセット8色、フレキソパール、金箔押し加工、空押し加工」となっています。印刷物として、とても贅沢な仕様です。

私たちの身の回りにある印刷物のほとんどが、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の4色印刷であるのに対して、この切手シートは8色ものインキで印刷されているんです! 

「切手趣味への招待シリーズ・第3集」のカラーマーク(出典:日本郵便株式会社)

「フレキソ印刷」は、ゴムや合成樹脂を使用した凸版印刷のことで、環境負荷が低いことでも注目されている印刷方式です。これで真珠のような光沢を出し、さらに「金箔押し加工」と「空押し加工」という特殊加工を加えています。フレキソ印刷は、シート上部の「桜花に富士図」の空の部分、「小金井橋夕照」「東海道品川御殿山ノ不二」の桜の花の部分、「あらし山満花」の川面の部分に使用されていて、シート全体がやわらかな光に包まれているような印象を受けます。そして「空押し加工」は、なんと「桜花に富士図」の桜の花の「空摺」の部分をそのまま再現するように入れられているのです! 白い花の輪郭線が、紙の凹凸で表現されています。


パール調の空に金箔の文字が輝くシート上部。白い桜の輪郭の「空摺」を空押しで再現。

浮世絵は非常に高度な日本の木版画の技術によって生まれましたが、この切手もまた現代の印刷技術の粋を集めて作られているのです。これは多くの方に、奥深い「切手趣味」への扉を開いてしまうのでは……。

「切手趣味への招待シリーズ 第3集」は、一部の郵便局で購入できるほか、郵便局のネットショップでも購入できます。もちろん普通の500円切手として、手紙やゆうパックの送付に使用することも可能です。発行枚数は3万シートとのことなので、興味のある方はお早めに。また、アダチ版画研究所(最寄駅・JR山手線「目白駅」)では、切手のデザインに使用された復刻版浮世絵を展示しているそうですので、切手と実際の作品を見比べてみるのも面白いかも知れません。

文・「北斎今昔」編集部