浮世絵の名品、百花繚乱! 「大英博物館日本美術コレクション」展覧会レポート

浮世絵の名品、百花繚乱! 「大英博物館日本美術コレクション」展覧会レポート

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現在、東京・上野の東京都美術館に、ロンドンの大英博物館が所蔵する日本美術の名品たちがやって来ています。大英博物館では、日本に関する作品・資料をおよそ4万点所蔵しており、今回はその中から選りすぐりの江戸絵画が日本にやってきました。出展作品は、なんと200件以上! そしてその過半数を占めるのが、北斎・広重・写楽・歌麿といった人気絵師たちの浮世絵版画の名品です。ボリューム満点の「東京都美術館開館100周年記念 大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画」をレポートします。

東京会場の東京都美術館は、今年開館100周年を迎える。

8大浮世絵師の名品+初里帰りの肉筆画

「大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画」では、御用絵師の狩野派や、京都の円山応挙といった江戸時代を代表する絵師たちの襖絵、掛軸、屛風の数々を見ることができます。「百花繚乱」の言葉通り、華やかでバラエティに富んだ江戸絵画の世界を堪能できる展覧会です。

細長い画面が面白い応挙の虎。時空の壁のすき間から、現代をのぞいているよう。
円山応挙《虎図》安永4年(1775)6月 大英博物館蔵

が、当媒体がその中でも注目したいのは、やはり出展作品の過半数を占める、大英博物館の浮世絵コレクションです。今回の展覧会では「8大浮世絵師」と称して、鈴木春信・鳥居清長・喜多川歌麿・東洲斎写楽・初代歌川豊国・葛飾北斎・歌川広重・歌川国芳の8名の絵師をフィーチャー。浮世絵の代名詞のような作品が並ぶ、名品展です。

北斎の代表作「赤富士」。小説家アーサー・モリソンのコレクションだった。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》天保元〜4年(1830〜33)頃 大英博物館蔵

また、出展作品は版画に限りません。貴重な肉筆画の数々も展示されており、2020年に日本でもニュースとなった北斎の幻の挿絵《「万物絵本大全」版下絵》の一部も、今回初里帰りを果たしています。誰もが知る名作から、希少な話題作まで、盛りだくさんの展覧会です。

出展作品200件越え! 大ボリュームの展覧会

展覧会は、第1章「花開く江戸絵画」、第2章「浮世絵--江戸の「いま」を映す万華鏡」の2章構成になり、第1章の前にプロローグとして、大英博物館の日本美術コレクションの形成に貢献した英国のコレクターと学芸員を紹介します。その紹介に合わせて、展覧会の冒頭から、北斎の代表作《冨嶽三十六景 凱風快晴》(通称・赤富士)、そして歌麿の珠玉の狂歌絵本《百千鳥狂歌合》が展示されており、浮世絵ファンの期待値をいきなり引き上げてくれる展示です。

歌麿の美麗な狂歌絵本も展覧会のプロローグで紹介。
喜多川歌麿《百千鳥狂歌合》寛政2年(1790)頃 大英博物館蔵

プロローグのエリアを抜けると、1章の展示は襖絵や屛風など、比較的大型(ただし描写はとても細かい)の作品の展示が続きます。1章の展示には、近年の調査・研究の成果が大いに反映されています。特に展覧会の目玉となっているのが、かつて奈良の談山神社(多武峯妙楽寺)にあった狩野宗眼重信の襖絵群。近代に入り、日・英・米と散り散りになってしまいましたが、今回の展覧会でおよそ150年ぶりに、一連の襖絵が同じ空間を彩ることになりました。また、1949年の火災により焼損した法隆寺金堂壁画の、被災前の姿を伝える模写《法隆寺金堂壁画 九号壁 模本》も、近年の調査で発見されたものです。

近年、大英博物館の収蔵庫から発見された法隆寺金堂壁の模写。ありし日の姿を伝える貴重な作品。
桜井香雲《法隆寺金堂壁画 九号壁 模本》明治13年(1880)5月 大英博物館蔵

繊細優美な花鳥画、当時の人々の暮らしを詳細に伝える風俗画など、この第1章だけで、十分に見応えがあるのですが、展示はさらに続きます。どうか2章の浮世絵の展示が始まるまで、体力を温存しておいてください!

華やかな金碧障屏画が並ぶ展示室。「大英博物館日本美術コレクション」展会場写真

第2章は、会場の雰囲気もガラリと変わり、浮世絵版画の小さな画面が連続するにぎやかな展示になります。「8大浮世絵師」として選ばれた8名の絵師それぞれにつき、10点前後の版画作品を展示し、さらに要所要所で、同時代の浮世絵師の作品も加わります。しかも、各絵師の代表作というべき作品が押さえられていて、さながら浮世絵史の教科書のような展覧会です。この展示を自館の所蔵品だけで実現できてしまうのが、大英博物館のコレクションのすごさです。

カラフルな壁面の展示室。それぞれの浮世絵師の名前に、キャッチコピーも付されている。「大英博物館 日本美術コレクション」展会場写真

8名の絵師の個性の花、咲き乱れる!

第2章の版画の展示では「8大浮世絵師」それぞれ壁紙の色を替え、カラフルでメリハリのある空間をつくっています。春信は桃色、清長は若葉色、歌麿はすみれ色、写楽は柿色、豊国は萌葱色、北斎は紺青色、広重は浅葱色、そして国芳は辛子色。各絵師のコーナーごとに文字の表示もあるのですが、壁面の色が変わることで、絵師と画風の切り替わりが視覚的にすっと入ってきて、思いの外、見やすく感じました。

鳥居清長の作品は、和紙のサイズも様々。群像で、様々な着物の柄を華やかに見せる。「大英博物館 日本美術コレクション」展会場写真

また、単に壁紙の色で識別できるというだけではなく、実際に、それぞれの絵師の特徴、得意分野がわかりやすい作品が選定されているように思いました。同じ美人画でも、春信の作品は非常にロマンティックで、清長の作品はまさに江戸の青春群像劇を見ているよう。そして歌麿は、ちょっとした仕草や小道具による女性たちの情感表現の巧妙さが際立ちます。

教科書に出てくるような、各絵師の代表作が並ぶ。「大英博物館 日本美術コレクション」展会場写真
煎餅屋の看板娘の愛らしい姿を描いた、歌麿の名品。
喜多川歌麿《高島おひさ》寛政4〜5年(1792〜93)頃 大英博物館蔵

そして驚くべきは、写楽作品の点数です。写楽は浮世絵師の中でも、知名度に比して現存作例が少ない絵師です。そんな希少な写楽作品が会場には11点も。ずらっと並ぶと、会場に芝居小屋の熱気が立ち上がってくるかのよう。三代目大谷鬼次と初代市川男女蔵の舞台上の対峙も、見事に再現。

「江戸兵衛」(左)は、芝居の中の悪役。展示室で向かい合う「奴一平」(右)から、現金を強奪するところ。
東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》、《市川男女蔵の奴一平》 いずれも寛政6年(1794)5月 大英博物館蔵

「松本米三郎の化粧坂の少将 実はしのぶ」は、黒い帯の部分の「正面摺」がきれいに残っていて、角度を変えて見ると模様がくっきりと浮かび上がりました。

正面からの鑑賞ではわかりにくい「正面摺」。角度をつけて見ると、黒い帯(赤い点線の部分)に模様が浮き上がる。
東洲斎写楽《松本米三郎の化粧坂の少将 実はしのぶ》寛政6年(1794)5月 大英博物館蔵

写楽の後には、初代歌川豊国の作品が続きます。現代では写楽の影に隠れがちな豊国ですが、豊国の顔の描写もなかなかに個性的です。ここでもまた、役者絵というジャンルの中で、絵師による違いが見えてきます。

ぎょろっとした役者の目と視線が合う、歌川豊国の役者絵。「大英博物館日本美術コレクション」展会場写真

ここまで、美人や役者といった人物が中心の展示が続きましたが、エスカレーターで次のフロアに移動すると、北斎・広重の風景画が並びます。グレート・ウェーブこと《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》はもちろん、ゴッホが模写した《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》、同じく《名所江戸百景 亀戸梅屋鋪》と、名作オンパレードです。

紺青のバックに映える世界の名作。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》天保2年(1831)頃 大英博物館蔵

構図・配色ともに大胆な広重の「名所江戸百景」シリーズはゴッホが模写したことでも有名。「大英博物館日本美術コレクション」展会場写真

さらに北斎の「出版されなかった北斎の版下絵」として、《百人一首姥かゑとき 平兼盛》の版下絵と『万物絵本大全』図の版下絵も紹介されています。版下絵、つまり北斎直筆の生原稿です。なんらかの理由で出版が見送られて、日の目を見なかった作品が、まさか令和の時代に、こんな形で人々の目に触れることになるとは、北斎は思いもしなかったでしょう。北斎本人の筆遣いを知ることのできる貴重な作品で、『万物絵本大全』図は2020年に大英博物館が103点をまとめて購入したものの中から8点が初来日しました。

ハガキほどの小さな画面ながら、北斎のいきいきとした筆遣いを見ることができる『万物絵本大全』図。「大英博物館日本美術コレクション」展会場写真

浮世絵版画の展示の最後を飾るのは、近年人気急上昇中の歌川国芳。エネルギッシュな国芳の作品群で、最後はもうお腹いっぱいです。これで展覧会は終わり、かと思いきや、この後さらに、絵師が直接描いた一点ものである肉筆浮世絵のコーナーが続きます。肉筆浮世絵の展示では、8大浮世絵師の中から北斎と歌麿の肉筆画が展示されていて、同じ絵師の版画と肉筆画の表現の違いを見ることもできます。

国芳といえば、これ。三枚の和紙を繋いだワイド画面で見せる巨大などくろ。
歌川国芳《相馬の古内裏》弘化2〜3年(1845〜46)大英博物館蔵

北斎の肉筆画《為朝図》は、曲亭馬琴の読本『椿説弓張月』(北斎が挿絵を担当)の完結を祝って描かれたもので、画面左上には、馬琴の賛が書き入れられています。作品は、源為朝の剛腕ぶりを伝え、為朝の弓は常人が引こうとしてもびくともしません。『椿説弓張月』は全29冊で完結していますが、最初の1冊目にもよく似た絵が描かれていて、刊行当初から見守ってきた読者には、きっと胸の熱くなるような作品だったことでしょう。

葛飾北斎と曲亭馬琴の最強タッグが生んだヒット作『椿説弓張月』の主人公・為朝を描く。
葛飾北斎《為朝図》文化8年(1811)大英博物館蔵

このように、版画と肉筆画、双方の優れた作品を所蔵しているからこそ、そして御用絵師の狩野派の作品から、町絵師である浮世絵師たちの作品まで、網羅的に収集しているからこそ、大英博物館のコレクションは、江戸文化の豊かな広がりと、絵師たちの活動の軌跡を見せられるのだと思います。江戸絵画の多彩さ、そして浮世絵の面白さを再認識できる、イチオシの展覧会でした!

展覧会オリジナルグッズも、大英博物館のミュージアムショップから届いたグッズも

同展は、展示だけでなく、お土産も充実しています。今回の展覧会に合わせて制作されたオリジナルグッズだけでなく、大英博物館のミュージアムショップからも人気商品が届いています。自分用にもお友達用にもおすすめのグッズがいっぱいで、目移りしてしまいます。特設ショップのスタッフさんによれば、中でも「すみっコぐらしコラボグッズ」の反響が大きいのだとか。お江戸テイストになったキャラクターたちが可愛いですね!

 

筆者は、フェリシモ「ミュージアム部」の制作した国芳の《相馬の古内裏》をモチーフにしたどくろデザインの折りたたみ傘(晴雨兼用)を購入! ちなみに、特設ショップでは、当媒体の運営母体であるアダチ版画研究所の復刻版浮世絵も販売しています。職人が一点一点摺り上げる木版画の味わい、ぜひ間近でご覧になってみてください。


展覧会情報

東京都美術館開館100周年記念
大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画

会 期:2026年7月25日(土)〜10月18日(日)
時 間:09:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
    ※金曜日は20:00まで
休室日:月曜日、10月13日(火)
    ※ただし9月21日(月・祝)、10月12日(月・祝)は開室
会 場:東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
観覧料:一般 2,300円/大学・専門学校生 1,300円/65歳以上 1,600円/18歳以下、高校生以下無料
【終了】※7月28日(火)〜8月7日(金)までの平日のみ、大学・専門学校生は無料。
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://daiei-ten2026.exhibit.jp
 

文/撮影・松崎未來(ライター)