おうちでお花見♪ 北斎・広重の浮世絵で楽しむ桜

おうちでお花見♪ 北斎・広重の浮世絵で楽しむ桜

桜の開花予報を目にする季節となりました。日本の春の代名詞である桜は、江戸時代の浮世絵でも、人気の題材です。今回は、日本を代表する浮世絵師・葛飾北斎、そして、風景画の名作を数多く残した歌川広重の作品から、3つのテーマで桜の浮世絵をピックアップ! 今年の春は、浮世絵の桜で、おうちでお花見をしませんか?

これぞ日本の美! 山と桜の眺望

一つ目のテーマは「山と桜」。桜の花越しに山の姿を望んだ風景画2点をご紹介します。

葛飾北斎「桜花に富士図」

葛飾北斎「桜花に富士図」*アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

最初にご紹介するのは、北斎の知る人ぞ知る名作「桜花に富士図」です。画面いっぱいに咲く満開の桜と、中央にそびえる富士は、まさに日本を代表する風景の共演! 本作は、出版物として広く巷に出回った浮世絵とは異なり、「摺物(すりもの)」と呼ばれるオーダーメイドの特注品。作品全体の淡く上品な色合いや、花びらを表現する空摺など、隅々まで趣向を凝らした本作を見ていると、なんだか贅沢な気持ちになりますね。

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歌川広重「名所江戸百景 隅田川水神の森真崎」

歌川広重「名所江戸百景 隅田川水神の森真崎」*アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

続いては広重の作品から。広重の風景画は、桜や雪など季節感のある題材を取り入れたものが多く、当時の人々のあいだでも好評を博しました。晩年の名作『名所江戸百景』では、120図を越える作品群が春夏秋冬の4部に分けられており、四季折々の江戸の姿を垣間見ることができます。中でも春の部で人気なのが、この「隅田川水神の森真崎」です。

歌川広重「名所江戸百景 隅田川水神の森真崎」*アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

隅田川東岸の堤(向島界隈)は、江戸屈指の桜の名所。「水神」は、この隅田堤の北に位置する神社でした。桜の花にクローズアップし、その木陰から眺めるような視点で、隅田川や対岸の真崎(現在の荒川区南千住)、そして遠景の筑波山をとらえています。視角に広がりを持たせるこの極端な遠近法は、広重が得意とした構図。鮮やかな春らしい色彩も相まって、実際にこの場でお花見を楽しんでいるような気持ちにさせてくれます。

花より団子? 庶民たちが楽しんだお花見

続いてのテーマは「お花見」です。花見の歴史は古く、奈良時代に貴族の間で始まった行事とされています。やがて花見の対象が桜として定着し、その文化は江戸時代に大衆に広まりました。桜を描いた浮世絵には、花見を楽しむ人々の様子も描き残されています。

葛飾北斎「富嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」

葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」*アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

御殿山(現在の品川区北品川)は、八代将軍・吉宗の時代に、庶民が花見を楽しめる場所として整備された桜の名所。ご座を広げて酒宴をする男性たちはもはや「花より団子」のご様子。扇を手に踊るような仕草を見せる侍の姿もあります。賑やかな、明るい笑い声が今にも聞こえてきそうな本作は、北斎の傑作シリーズ「富嶽三十六景」の一枚です。気心の知れた人たちと、美しい風景や楽しい時間を共有する楽しみは、いつの時代も変わらないものですね。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」部分図 *アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

歌川広重「江戸近郊八景之内 小金井橋夕照」

歌川広重「江戸近郊八景之内 小金井橋夕照」*アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

一方、広重の「小金井橋夕照」に描かれているのは、江戸郊外の長閑な春の夕景。御殿山と同じく吉宗の時代に植樹が行われ、桜の名所となった小金井橋付近の満開の桜を描いていますが、道行く人々の素朴な立ち姿や、川辺でのんびりと桜を眺める花見客の表情は、寂寥すらも感じさせます。どこか感傷的な夕暮れ時のお花見も、また一興ではないでしょうか。

歌川広重「江戸近郊八景之内 小金井橋夕照」部分図 *アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

桜の花そのものにクローズアップ

最後は、自然の草花や生き物に焦点をあてた花鳥画で、桜を堪能! 北斎と広重、それぞれの花鳥画には、描き方の違いもみられます。

葛飾北斎「鷽に垂桜」

葛飾北斎「鷽に垂桜」全体図(左)と部分図(右)*アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

江戸時代には身近な鳥だった鷽(うそ)と、一般的な桜よりも少し早咲きである、しだれ桜を描いた本作。濃い藍色の背景に白い桜花がよく映え、花の華やかさが一層際立ちます。そして何よりも驚くのは、細い枝にとまる鷽の小さな趾(あし)や、しだれ桜の花びら一枚一枚の、緻密で丁寧な描写。北斎の鋭い観察眼と、優れたデッサン力が存分に発揮されています。自然の森羅万象のすべてを描こうとした北斎の意気込みも感じとることができますね。

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歌川広重「八重桜に小鳥」

歌川広重「八重桜に小鳥」全体図(左)と部分図(右)*アダチ版復刻浮世絵(画像提供:アダチ伝統木版画技術保存財団)

平安時代から和歌に詠まれ、日本の春の風物詩として知られる八重桜。ふわりと大きな花を咲かせる八重桜の枝に、ちょこんととまる可愛らしい小鳥を描いた本作からは、穏やかな春の、あたたかい空気感が伝わってきます。広重は、こうした短冊形の画面に、漢詩や和歌を添えた花鳥画をよく描きました。短冊という形式を花鳥画に用いることで、歌に詠まれた世界を江戸の庶民にも伝えようとしていたのかもしれません。

今回ご紹介したのは、数えきれないほどある桜の浮世絵の中の、ほんの一部ですが、ぜひお気に入りの一枚を見つけてみてください。

文・「北斎今昔」編集部