見て触れる浮世絵! アダチ版画研究所・目白ショールーム

見て触れる浮世絵! アダチ版画研究所・目白ショールーム

当サイト「北斎今昔」の編集部は、浮世絵の復刻を手掛ける創業90年の木版画工房、兼版元「アダチ版画研究所」内にあります。彫師・摺師の仕事場は非公開ですが、社屋地下には、復刻版浮世絵を展示したショールームが。これまでに企画展やイベントも開催してきました。無料でどなたでもご覧いただけますので、ぜひ足をお運びください。本稿では、これまでにアダチ版画研究所のショールームで開催した企画展などをご紹介します。

(2020年6月より事前予約制となっていましたが、10月17日以降、予約なしでご来場いただけるようになります。ただし今後の状況に応じて、再度予約制に切り替える可能性もありますので、ご来場の前に、アダチ版画研究所のウェブサイトにて、営業状況をご確認ください。また、コロナウィルス感染拡大防止のため、マスクの着用や手指の消毒、ソーシャルディスタンスを確保してのご鑑賞にご協力をお願いいたします。)

「富嶽三十六景」全46図復刻完了! 3000人を動員した「富士、極まる」展(2006年)

アダチ版画研究所は、江戸時代から続く伝統的な木版画の技術によって版画を制作している工房兼版元。彫師・摺師を含む従業員数20名ほどの企業で、東京・目白に社屋を構えています。社屋の地下には、同社で制作した版画を展示するショールームがあり、誰でも気軽に同社の版画作品を楽しむことができます。

この小さなショールームに、1ヶ月半で約3000人の人が押し寄せたことがありました。2006年、アダチ版画研究所が北斎の「富嶽三十六景」全46図の復刻事業を完了し、ショールームでお披露目展「富士、極まる」を開催したときのことです。職人歴50年以上のベテランから20代の若手までが参画したこの長年にわたる復刻事業は、NHKの首都圏ニュースや新聞各紙で取り上げられ、話題となりました。


連日ショールームに多くの人が訪れた2006年の「富士、極まる」展。

通常、江戸時代の浮世絵は、作品保護の観点から、照明を落とし空調管理した展示室内で、ガラス越しに鑑賞しなければなりません。200年前の絵具の褪色を少しでも抑え、和紙が劣化することを防ぐためです。

しかし、現代の職人たちが制作した復刻版は、生活の中で気軽に楽しむことを目的に制作されています。あの有名作の数々を、明るい照明の下で間近に鑑賞できる「富士、極まる」展。幅広い年代の人が各地から訪れ、北斎の描線と鮮やかな色彩を再現する匠の技に感銘を受けました。

前衛芸術家・草間彌生と伝統木版画がコラボ! 七色の富士山が出現(2015年)

2015年、アダチ版画研究所はふたたびメディアで大きく取り上げられることになります。その題材は、またしても富士山。葛飾北斎の「富嶽三十六景」の復刻に続き、話題となったのは、前衛芸術家・草間彌生さんが描く富士山の木版画制作。

古来より様々な絵師、画家が挑戦してきた霊峰・富士という題材に、世界的アーティストである草間彌生さんが挑み、アダチ版画研究所がその作品を浮世絵の制作技術によって版画にしたのです。伝統と前衛の新しい挑戦。その制作の過程を追ったドキュメンタリ番組がテレビで放送されると、直後からアダチ版画研究所の電話は鳴りっぱなしでした。

草間彌生さんが描いた富士山を、現代の職人たちが木版画に。多くの人に「新しい時代の浮世絵」の姿を提示した「わたしの富士山」展。

こうして同年夏に、草間さんの木版画作品3図(計9点)を目白ショールームで公開。「わたしの富士山」展(7月30日〜8月9日)と題した展覧会に、草間さんのファンが大勢来場しました。

草間彌生さんの木版画とともに、制作に使用した版木も会場に並べました。

アダチ版画研究所では、創業以来、浮世絵の復刻と同時代の作家の版画制作を並行して行ってきましたが、草間彌生さんの版画制作によって、時代を越えて美と文化の架け橋となってきた高度な日本の版画技術の素晴らしさを、より多くの人に伝えることができたのです。

来場者の方々の感想。「前衛と伝統が見事に融合してすばらしかったです」

「高校生ニッポン文化大使」たち、彫師・摺師と北斎に学ぶ(2018年)

アダチ版画研究所の目白ショールームでは、日本の伝統木版画技術の保存・継承のために、さまざまな企画を実施しています。若い世代や海外の方々に、浮世絵、そしてその制作技術について知っていただく機会を設けることも大切にしています。

2018年には「高校生ニッポン文化大使」の皆さんのワークショップにご協力しました。「高校生ニッポン文化大使」は、文化庁と朝日新聞社が主催する文化プログラム。日仏の高校生が日本文化について学び、その魅力を世界に向けて発信します。


高校生たちを前に、制作の実演を行う30代の彫師と摺師。

2017年度のテーマは、天才浮世絵師・北斎。都内の美術館・博物館で、浮世絵や北斎についての見識を深めたニッポン文化大使の皆さんは、最後にアダチ版画研究所の目白ショールームへ。若手の彫師・摺師が、若き文化大使たちの目の前で、北斎の「神奈川沖浪裏」の制作工程をご紹介しました。

高校生ニッポン文化大使 2分Japanese.ver

美術館や博物館で見てきた浮世絵が、職人の手によってだんだんと摺り上がっていくのを目の当たりにするのは、高校生の皆さんにとって、とてもエキサイティングな体験だったようです。

アダチ版画研究所ショールームでの展示やイベントについては、今後「北斎今昔」でもご紹介していきます。10月17日からは、企画展示「展示で見る北斎の今と昔」を開催予定。目白のショールームにお越しの際は、ぜひスタッフに「北斎今昔読んでますよ」とお伝えください。

【予告】北斎生誕260周年記念「展示で見る北斎の今と昔」
会期:2020年10月17日(土)~11月21日(土)

アダチ版画研究所ショールーム
住所:東京都新宿区下落合3-13-17
TEL:03-3951-2681
アダチ版画研究所 ショールームのご案内(アクセス・営業日カレンダー)はこちら

 

文・「北斎今昔」編集部